第7話 木こり無双

 小さな村では、個人という感覚は薄いようだ。

 お金や貴重品なんかはともかく、食べ物や道具はお互い融通し合っているし家を建てる際は村の人たちが総出で手伝う。

 生き残るための知恵なのだろう。


 それに良い悪いと外部の人間がケチをつけるのは野暮だ。


「というわけで、木が欲しいんです。幸い食べ物は春の時期でなんとかなりそうなんですが、燃料や建物の修繕に使う木材が足りなくて……。嵐のせいで村の備蓄分もほとんどありません」


 ミーシャに案内された薪置き場はほぼ空になっており、事態はそれなりにひっ迫していた。

 木を一本切るのは本来重労働だ。

 獣人の村人たちは一般の人間よりも力はあるそうだが、それでも一日で何本もは切れない。

 男衆がいればその辺は解決できたんだろうが……。


「煮炊きにも風呂にも、飲み水を確保するにも燃料は必要になる。ある意味お金よりよほど大事なんだよ。さすがに買ってまで手に入れようとは思わないけどね」


 俺がミーシャを手伝うと聞いてやってきたフアンにも話を聞く。

 薪なんて買ってたら村が破産するよ、なんて言っていたが生きるためにはそうするしかないのだろう。

 最後の手段というやつだ。


 幸い俺にとって伐採はたいしたことじゃない。

 なんせビームサーベルは普通の剣とは違って、触れた部分を溶解しながら切断することが可能だ。

 コスモリンクの技術力によって高エネルギーを束ねているからこそできる芸当だろう。

 斧とは違い、力で切るわけではないのでそれほど疲れない。


「周辺の森の木はどんどん切って欲しいね。食べられる果実がなるのは少し奥に行ってからだから気にしなくていい。村を広げられるし、獣も近づかなくなるから助かるよ。数が多ければ村から少しは謝礼も出すから頑張って」

「とりあえずやってみるか」


 ミーシャからはお弁当ということで、小さな袋を貰った。

 途中で食べてくれとのことだ。

 食べ物を支給されるのとはちょっと違う気分で嬉しいかもしれない。


 太陽で充電したビームサーベルを起動させる。

 出力は最低で十分だな。

 俺の腰くらいはありそうな立派な木の前に立ち、ビームサーベルを横に振る。

 それだけで木を切断した。

 切れ味が奇麗だからか微動だにしない。

 思いっきり蹴って向こうに倒れさせる。


 いくら俺が鍛えていても、斧だと日が暮れそうだと考えながら次々と切り倒す。

 村を広げるなら根も引き抜く必要があるが、それは村に任せよう。

 今はとにかく燃料になる木を集めるのが先決だ。


 まずは村の人たちの信用を得る。

 それから行動範囲を広げて戦争とやらの詳しい調査をしたい。

 勝手に山の中に入って調査してもいいんだが、採掘までするとなるとバレずにすませるのは難しいだろうし。


 そんなことを考えながらビームサーベルをブンブン振っていたら、いつの間にか周囲は倒木だらけになっていた。

 ちょうど充電も切れてしまった。

 もう一本は護身用に取っておきたいし、これで頼まれた分は確保できただろう。


 休憩のためにその辺に腰かけて、ミーシャから貰った袋を開ける。

 中にはパンとジャムが入っていた。


 パンは普通のものとは違う気がする。

 ジャムをつけて一口食べると香ばしい風味がした。


(どんぐりのような木の実を潰してでんぷんを抽出して作ったパンのようです)

(小麦なんてどこにあるのかと思ったら、どんぐりが原料か)


 苦みはない。下処理がちゃんとしているのだろう。

 ありがたく頂いて、それから切った木を運ぶ準備をする。

 昨日作ったコロが丁度役に立ちそうだ。


 大量の木を持ち帰ると、フアンもミーシャも驚いていた。


「一日でこんなに?」

「ああ。その様子だと足りないってことはなさそうだな」

「そりゃそうだよ……どんな魔法を使ったんだい」

「これで切っただけだ」


 充電の切れたビームサーベルを手に取る。

 少なくともこれを作る技術力はこの村周辺には存在していないようだな。


「こりゃあ文字通り売るほどあるね。好きにしていいのかい?」

「ああ。寝床と飯の礼だと思ってくれ。謝礼も貰えると嬉しいけど」

「もちろんさ……皆で薪にして余った分を近くの都市に売りに行くから、そこから出すよ」


 木を切ったことを聞きつけた村の住人たちがワーッと集まり、協力して薪割りをすることになった。

 大変な作業だろうに、皆嬉しそうだ。


 俺も手伝う。

 渡された斧はよく研がれていたが、ビームサーベルのようにはいかないのでとても疲れた。

 どれだけ大変な作業でも、頭数がいればなんとかなる。

 夕方になる頃には薪用の倉庫が一杯になり、余った薪が外に溢れ出していた。

 それらをひもで縛り、わきによける。


「本当は乾燥させた方が高く売れるんだけど、待ってたら夏になっちまう。近いうちに売りに行くつもりだよ」

「都市に行くなら俺もついていきたいんだが、構わないか?」

「構わないよ。好きにするといい。ただ戻ってこないならミーシャにちゃんと挨拶して欲しいけどね」

「分かった。その時はそうする」


 夕食は集まったついでに再び大鍋で調理が始まった。

 付近で採取したキノコやら根菜を煮ているらしい。

 出汁は昨日の猪の骨から煮出している。


(あのキノコって食えるのか?)

(データと参照した限りは全て食用です)


 さすがは現地で暮らしているだけあってその辺は問題ないか。

 ミーシャに会った時に袋を渡して弁当のお礼を言う。

 彼女は照れくさそうに笑っていた。

 キノコ汁はやや薄味だったが、美味しかった。


 それにしても、都市か。

 しかも人間の都市らしい。

 何か情報が手に入るといいのだが。


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