優奈のお披露目

当然のことだが、優奈は身体の大きさを自由に変えられるようになっていた。

「う~んとね、身長826cm・・・かな?」

「いや、ナノマシンで測定できるから・・・」

冴香が必死に手を伸ばしてメジャーで優奈の身長を測ろうとしているのを見て、千鶴は少し呆れていた。

(自分が上位種だって一番わかってないのは冴香ちゃんかも知れないな)

「まぁまぁ、でも、優奈ちゃんの最小身長は826cmかぁ、でかいね~。」

優奈の爆乳をも見上げなければならない身長528cmの美晴が自分の手を頭に当てて優奈の身体のどのあたりまで届くのか確かめている。

「でも、これで街を踏み潰さなくても中に入れるから、ちょっと嬉しい。」

「私もでかいまんまだったら街に入れないから、その気持ちはわかるよ。」

嬉しそうに言う優奈の隣りで、身長712cmと冴香より少し大きいランも笑っていた。

優奈とランを迎えた初めてのお茶会はいつもよりも賑やかになった。


「そうそう、優奈ちゃん、明日も来れる?」

思い出したように千鶴が尋ねた。

「はい、来れますけど、なんでですか?」

「閣僚全員に挨拶させようと思ってね。」

「はい・・・へ?閣僚って、総理大臣とかが来るんですか?」

「そうよ、超上位種様が覚醒したんだから挨拶に来るのは当然よ。」

「え?でもぉ、私なんかのために?いいんですか?」

「まあ、一種のセレモニーと思ってくれればいいわ。やらないと、跳ねっかえりの普通種とかが、優奈ちゃんのこと舐めてかかることになるかも知れないしね。必要なことなの。」

「はい・・・」

隣りでランが「凄いねぇ、優奈ちゃん。国のトップより偉いんだ。」と茶化しているが、美晴が笑いながら釘を刺した。

「他人ごとのように言ってるけど、ランちゃんも優奈ちゃんに挨拶してもらうから。理由は、わかるよね。」

「ですよねぇ・・・」


ここで逆らっても優奈ちゃんはきっと怒らないだろう。でも、そうすると国勢を盛り返そうとする跳ねっかえりが、ランの意思と関係なく国内唯一の上位種のランを旗印に据える恐れがあるのだ。そうなると、話がややこしくなる。最悪の場合、今度こそ故郷は消滅してしまうだろう。



翌日、いつも使っている軍基地の巨人種用のミーティングルームに、現在の首相である身長242mの渡邊涼子が、外務大臣兼軍務大臣である身長262mの鮫嶋ありさを伴って姿を現した。

「あれ?なんかこの部屋大きくなってない?」

涼子の疑問に案内して来た軍属の巨人種が答える。

「はい、優奈様の40倍サイズに合わせて拡張しました。それに、若い巨人種の中にも、身長300m近い子がいますのでちょうどいいだろうと。」

確かに20代前半に見えるこの巨人種の女の子も身長は涼子とあまり変わらない。

「なんか、私たちもそのうち巨人種の中では小柄な方に入るかもね。」

自嘲気味に笑いながら中に入ると、既にひとりの巨人が入り口に近い上位種席に座っていた。


誰なんだろう?軍属の巨人種には見えない。というより、もしそうだったら椅子に座っていいはずが無い。座っていいのは今日初めて会う超上位種の優奈様と上位種のお三方・・・あっ・・・涼子は何かを思い出したようだ。

「あ、あの・・・ラン様、でいらっしゃいますか?」

幼い顔立ちの女の子がニコッと笑ってすっと立ち上がった。


40倍、285mに巨大化していたランが、部屋に入ってきたふたりの巨人に軽く頭を下げた。

「はじめまして、ランと申します。え~っと、総理大臣の涼子さんとこちらは外務大臣のありささん、ですよね。よろしくお願いします。」

「あっ、頭をお上げください。ラン様は外国の方とはいえ我が国の上位種様と同等のお立場と千鶴様から伺っています。そんなことをされては、私たちが叱られます。」

涼子とありさが慌てて深々と頭を下げる。

「わ・・・わたくしが、首相を務めさせていただいております、渡邊涼子と申します。こちらは、外務大臣兼軍務大臣の鮫嶋ありさです。どうぞよろしくお願いいたします。」

「そうなんだ。じゃあ、堅苦しいことはこれくらいにして、一緒に優奈ちゃんを待ってましょ。」

その時、部屋の外から声が聞こえた。


「ランちゃん、あんまりからかわないであげてよ。これでも一応この国のトップだからさ。」

50倍、身長262mの美晴と、100倍、身長282mの千鶴が入り口に並んで立っていた。

千鶴の最低身長はいつの間にか282cmにまで大きくなっていたので、この巨女ぞろいのメンバーでも何とか100倍の巨大化で追いつくことができるようになっていた。

「あはっ、別にからかってなんかいませんよ。国で一番偉い人にご挨拶しただけです。あ、でも一番偉いのは優奈ちゃんか。」

ランは舌を出して笑いながら席に座ると、千鶴と美晴もちょうど正対するように席につく。

「そう言えば冴香ちゃんは?」

「優奈ちゃんと一緒に来るって。なんか、優奈ちゃんにお願いされたみたい。」

まぁ、優奈より後に来るよりはマシかな。美晴の答えを聞きながら千鶴はそう思っていた。優奈の気持ちは最優先だが、それでも締めるところはちゃんと締めないと、というのが千鶴の考え方だ。なので今日、ランにも来てもらったのだ。


美晴の正面に千鶴、隣りにランが座った状態で、談笑が始まる。

涼子とありさはもちろん直立不動だ。そこに美晴がちょっかいを出した。

「涼子さん、ありささんも、今からそんなに緊張してたら身体持たないよ。」

「し、しかし、そうは仰っても・・・」

「大丈夫だよ。優奈ちゃんはめちゃくちゃ強いけど、千鶴ちゃんみたいにおっかなくないから。」

「わっ、私だってちゃんと優しくしてるわよっ!」

必死に弁明しようとしている千鶴も可愛いな、と、思ってしまう美晴だった。


40倍、身長280mの冴香が入ってきた。

涼子とありさが背筋を伸ばして頭を下げるのを横目で見ながら、千鶴の隣の席で立ち止まった。

そして最後に、40倍、330mの優奈が姿を見せた時、上位種の全員が立ち上がり、その場にいる全員が深々と頭を下げた。


(うわぁ・・・本当に、私が一番偉いんだ・・・)

優奈は少しドキドキしながらゆっくりと中に入り、一番奥の席の前に立って、

「私が覚醒した峰野優奈です。皆さん、よろしく。」

そう言ってゆっくりと席についた。

次いで、千鶴、美晴、冴香の順に簡単な自己紹介をして着席していった。

「私は隣の大陸の上位種、ラン・メイです。縁あって皆さんのお仲間に加えていただけたこと、とても嬉しいです。よろしくお願いします。」

ランも優奈に向かって深々と頭を下げて席につく。優奈以外の3人の顔から少し緊張が取れたように感じた。


続いて、涼子、ありさの順に自己紹介して、最後にランが来る前から壁の花になっていた司令長官と参謀長官が挨拶した。

「他の大臣は?来てないの?」

優奈が少し不機嫌そうな顔で質問した。

「は、はい。こちらに・・・」

ありさが両手を差し出すと、手のひらに大型の観光バスが2台乗せられている。

「他は全員こびとなんだ。ねえ涼子さん、こいつら使えるの?」

優奈がさらに仏頂面になる。

「はい、役に立っています。役立たずは全員処分しましたから。」

「処分ねぇ。あなたの判断で処分したの?」

「はい・・・恐れながら・・・」

涼子は背中に冷や汗をびっしょりかきながら、身体を正確に90度折り曲げていた。

「じゃあ、もう役立たずはいないのね。」

「は、はい。恐らく・・・」

優奈の追い打ちに、もう涼子は震えが止まらない。

「わかった。今までのことはいいわ。今後は勝手なことはしないでくれるかな。」

「は、はい。問題があった場合は速やかに報告し、優奈様のご判断を仰ぎます。」

「それでいいわ。じゃあ、上位種以外は退出してくれるかな。」

室内にいた巨人種、普通種は、深々と礼をして部屋を後にした。



「優奈ちゃんの怒った顔って凄い迫力だねぇ。でも、こびとのことなんか気にしなくなったんじゃないの?」

ランが不思議そうな顔で尋ねると、代わりに千鶴が口を開いた。

「さっきのは私が優奈ちゃんにお願いしたの。最近、涼子さんがやり過ぎてるんじゃないかって話が複数あってね。優奈ちゃんにちょっとお灸をすえてもらったのよ。」

「効果てきめんだよねぇ。顔面蒼白だったよ。」

美晴がそれに乗っかって来た。なんだか楽しそうだ。

「でも・・・なんか、ちょっと可哀そうでした。私がやり過ぎちゃったかも・・・」

優奈が少し不安そうな顔になる。

「優奈ちゃんは気にしなくていいよ。悪いのは涼子さんに変な免罪符を与えた千鶴ちゃんだから。」

冴香が、意地の悪そうな顔でチラッと千鶴を見やった。

「しっ、仕方ないでしょっ!あんなこと言った手前、私がダメだしする訳にはいかないじゃない。」

あんなこととは、前内閣を涼子に粛清させた時に、千鶴が『我慢しないで好きなようにしてもいいのよ。魅力的でしょ?』と煽ったことだ。

「まぁ、あの時は私たちもあの子があそこまでするとは思わなかったからねぇ。でもこれで少しは大人しくなるんじゃない?」

美晴がいい感じに締めてくれたので、優奈と千鶴は少しホッとした。


「そう言えばランちゃん、こっちで行ってみたいところがあるって言ってたけど。」

優奈が話題を変えた。

「うん、一度東京に行ってみたいんだよね。一応この国の首都だからさ、優奈ちゃんが許可してくれないと行けないなって思って話したんだ。」

「外国の上位種が東京観光ね~、確かに許可できるかは難しいわね。でも、ランちゃんだったら問題ないと思うけど、優奈ちゃんはどう思ってるの?」

千鶴が応じるが最終決定は優奈がしなければならないと思っている。

「それ、実は私も・・・行ったことないから行ってみたいなぁって思って・・・」

優奈が俯き加減に少し顔を赤らめた。


「じゃあ、ふたりで行ってくれば?」

冴香が大胆な提案をした。

「えっ!?それは、そのぉ・・・ランちゃんと一緒は嬉しいけど、ちょっと不安もあって・・・」

「別に小さくなってても危険は無いから大丈夫だと思うけど。」

美晴も千鶴も何が不安なんだろうという顔になっている。

「自分のことじゃないんです。人がいっぱいだから、バカ力で迷惑かけないかと思って・・・冴香おねえさんが一緒なら、嬉しいかなって・・・」

あ~、そっちかぁ、確かに人は多いからなぁ。冴香も納得するが別にこびとをどうにかしたところで気にしなければいいのだがそうでもないのだろう。

「いいよ~、ってかそういう時は一緒に行って欲しいって言っていいんだよ。優奈ちゃんのお願いを聞くのは最優先なんだから、ね。ランちゃん!」

「え?あ、そうですね。」

いきなり振られてランも少しビックリしてしまった。

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上位種 唐変木 @touhenboku_desu

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