静かな海と小瓶の手紙

山口沙織

***

Aという名前の小さな灯台が、

海のそばにぽつんと立っていました。


灯台の光は強くもなく、弱くもなく。

ただ、夜になると、迷っている小さな船だけが

その灯りを見つけて、静かに港へと向かってきます。


ある日、波打ち際にひとつの小瓶が流れ着きました。

中には、しわくちゃの紙が一枚。

こんなふうに書いてありました。


「今の私は、どこに向かっているかわからない。

でも、あの優しい灯りがまだそこにあるなら、

私はそれを目印にして、また進める気がするんだ。」


灯台は、それを読んで少しだけ照れくさくなり、

でもその夜、いつもよりちょっとだけ、

あたたかく光りました。

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静かな海と小瓶の手紙 山口沙織 @saori_y_1980

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