第3話 路線バス車内

 わたしはいつもの特等席に座り準備を整えた。と、言っても居眠りするだけだが。


「それじゃあ、おやすみなさい」

 膝の上のリュックの中でクロが目を瞑る。

 わたしも目を瞑る。意外とこういう時ってすぐ眠れなかったりするんだよなあ。などと思いつつ、「指輪物語」の場面を思い浮かべる。


 ……わたしはフロドの後ろを歩いて行った「いとしいしと」……


 ——わたしは、馬の背中に乗っていた。ゆっくり歩く馬の背中は揺れが気持ちよく、このまま知らない土地まで連れて行ってくれるんだろうなぁ、とかのんびり考えていた。

 馬の背中はゆっくり揺れて気持ちがいい。


 ふと、馬がわたしを振り返り声をかけてきた。

「……起きてください、起きてください!」


 クロがリュックから顔を出してわたしに呼びかけていた。

「起きてください、寝すぎです!」

 わたしはハッと目を覚まし、あわててバス停車ボタンを押した。

「しまった、寝過ごした!」

 すぐにバスは停車したので、寝ぼけたままリュックを背負って、運賃と整理券を料金口に入れてバスを降りた。


 バスはわたしたちを降ろすと走り去って行った。


「はー、びっくりしたー」

 何とかバスを降りれたことに安堵する。

 が、顔を上げて仰天した。


 わたしの目の前に広がる景色は、見たこともない田園風景だった。

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