第30話 ファイト!

――京都・木屋町。


 鴨川沿い、薄暗い柳の並木道。時刻は午前3時。店の灯りはすでに落ち、静寂の中に水の音だけが響いていた。


 佐倉悠と黒石ユウトは、古びた防具屋の前で足を止めた。看板には墨で乱雑に書かれた文字。


> 【戦装堂】──長曾我部元親御用達 




「元親って……戦国の海賊武将だよな。こんなとこに名前残ってんのか」


「この店の防具、ただのアンティークじゃない。記憶が宿る《思念装甲》だ」


 ユウトが扉に手をかける。鍵はかかっていたが、佐倉は迷わずポケットから金属の束を取り出す。


 ジャラリと鳴ったのは、無数のキーピック。そして――


「木屋町式ロック……開錠コードは“うらみ・つらみ・かなしい歌”。中島みゆき式だな」


 カチリ、と音がして扉が開いた。


 薄暗い店内。棚には、奇妙な防具が並んでいた。鉄と布、骨とレコードジャケット、革に刺繍された歌詞。


 奥の間から、年老いた店主が現れた。白い髭、やせ細った体、そして手にした一枚のカセットテープ。


「……お前たちが来るのは、もう見えてた。中森のあとには、中島が来る。筋書き通りや」


 佐倉が静かに受け取る。ラベルにはこう書かれていた:


> 「ファイト!/中島みゆき × 長曾我部元親Remix」




 古びたラジカセで再生すると、重厚なベースと語りのようなボーカルが木屋町に響いた。


> ♪ ファイト! 戦う君の歌を〜

戦わない奴らが笑うだろう〜




 その瞬間、奥の鎧がうごめいた。闇の中から、異形の武者が現れる。鎧の隙間から炎のような感情が漏れ出す。


「……《元親ノ鎧》。感情を喰って動く、怨念装甲か」


 ユウトが肩を鳴らす。「こいつ、ただのコレクションじゃねえな」


 店主が呟いた。


「この鎧には、元親が四国統一のために切り捨てた“仲間の声”が封じられてる。中島の歌で呼び起こされたんや」


 佐倉はカセットを巻き戻し、再生ボタンを強く押す。みゆきの歌声が再び流れ出す。


> ♪ ファイト!

負けないで涙を〜

いつの日か笑えるように〜




 その旋律が、鎧の内側に残る“誰かの悲しみ”に触れた。


 ガタリ、と武者の動きが止まる。


 ユウトが駆け、鎧の心臓部に“封印釘”を打ち込んだ。怨念が弾け、店内に静けさが戻る。


 店主は微笑んだ。


「……泣いてもええんや。飾りじゃないやろ、涙は」


 佐倉は頷いた。「中島みゆきは、俺たちの“影”を歌ってる。救えない過去も、引きずっていいって」



---


🎴《元親ノ鎧》:封印完了/木屋町の防具屋より回収

🔑 キーピック使用:木屋町式中島コード突破

🎧 BGM:「ファイト!/中島みゆき(Remix ver.)」

🛡 特殊装備:《思念装甲・影狼型》入手


> “戦う理由を忘れたら、涙さえ見えなくなる”





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