第29話 洲崎インビジブル《JINPACHI_CAMO》

 ――東京湾の西端、かつての花街――洲崎。

 かすかに潮の匂いが残るこの街の裏路地に、“姿なき殺戮”の記録が刻まれていた。

 夜。濃霧。ネオンが滲む。



 佐倉悠と黒石ユウトは、かつて栄えた古い劇場跡に立っていた。廃墟の奥、地下ステージ。

 そこには一枚のホログラフと、奇妙な名前が記されていた。


> 《JINPACHI_CAMO_Protocol》

対象:ステルス迷彩装備体「NEZU_J」

キーワード:中森明菜、洲崎、根津甚八、ヤンキー、ステルス迷彩




「根津甚八……真田十勇士のひとり、影の忍だったな」

 ユウトが照明を落とす。暗視ゴーグルの映像に浮かぶ奇妙な人影。


「ただの伝説だと思ってたが……この街で“見えないヤツ”が襲ってくるって噂、マジだったか」


「影の系譜……それが《NEZU_J》。

中森明菜の幻影を纏い、姿を奪う特殊迷彩――通称セカンド・デザイア


 ホログラフのスイッチが入り、廃劇場に古い音源が流れ出す。


> ♪「飾りじゃないのよ 涙は」―中森明菜


 その瞬間、空間が歪んだ。

 ユウトの背後に、何かがいた。


「チッ……! 動きが速ぇ、ステルス使いか!」


 ナイフが飛ぶ、ゴーグルがはじけ飛ぶ。

 だが佐倉は動じない。懐から一枚の古いCDを取り出す。


「ズッキーニ、1stデモのボーナストラック。『影は踊らない』……“見えないもの”に効くって噂のやつだ」


 ラジカセから、歪んだギターと打ち込みドラム。

そのリズムに合わせて、霧の中で何かがよろめいた。


「音楽でステルス解除……相変わらずトリッキーだな、佐倉」


 ユウトがニヤリと笑い、ブラスナックルを構える。


 一瞬、霧の中に“彼”の姿が浮かび上がった。


――ツンツンの金髪リーゼント。

――紫の特攻服。

――背中に「洲崎影狼連合」刺繍入り。

――その名は、《ネズ・ジンパチ》。


「見えなきゃ負けねぇ。これが俺の正義なんだよ!」


――正義? それは本当に。


 佐倉は静かに言う。「昔のヤンキーは、守るために戦ってた。お前、忘れたのか?」


 ネズがひるむ一瞬、ステルスが乱れる。

 その隙に、ユウトの膝蹴りが炸裂。

 明菜のサビが劇場を貫いた。


> ♪ 飾りじゃないのよ 涙は〜 Ah〜 ♫



 倒れたネズの懐から、小さなカセットテープが転がり落ちた。

 ラベルには手書きの文字:


> 「母ちゃんへ/歌:俺」



「……こいつも、ずっと“誰かのため”にやってたんだな」

「けど、間違った形で。救えるなら、救おうぜ」


 佐倉はステルス迷彩を解除し、旧型装備としてデータ保存。


 ネズ・ジンパチは、記憶処理のあと医療班へと引き渡された。


 劇場の屋上に出ると、夜風が気持ちよかった。


 ユウトが言った。「明菜、いいよな。あの声、ぶっ刺さる」

 佐倉は小さく頷いた。


「……飾りじゃないんだ、俺たちの涙も」


---


🎭 NEZU_J:無力化/ステルス迷彩セカンド・デザイア回収完了

🎧 BGM:「飾りじゃないのよ涙は/中森明菜」

🎤 挿入歌:Zucchini「影は踊らない(未発表)」


> “姿が見えなくても、心は消えない”




 

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