第27話 米原コード《ZUCCHINI_EXCALIBUR》

 滋賀県・米原市――

 東西の風が交錯する、かつて軍用鉄道の結節点だったこの町に、“古代と現代が繋がる”地下構造が眠っていた。


 

 深夜、雨上がりの山中。


 佐倉悠と黒石ユウトは、旧・米原演習場跡地の弾薬庫跡にいた。草木に覆われたそのコンクリートの扉には、明らかに“現代”には存在しない文様が刻まれている。


「ここが……“ズッキーニの墓場”か」


「バンドの話かと思えば、マジで物騒なもん埋まってるじゃねぇか」


 佐倉は目を細める。「……俺、高校の時、ここでライブやったんだよ。学校にバレないよう、夜中に。ズッキーニって名前で。あの時の音が、まだここに残ってる気がする」


 


> 《ZUCCHINI_Protocol》

対象:旧時代兵装エクスカリバーの回収

キーワード:米原、ズッキーニ、弾薬庫、エクスカリバー、江戸重通



 弾薬庫の奥、湿った空気の中に佇む一振りの剣。


 それは剣というより、巨大な“戦術触媒”だった。英語で刻まれていたコードは「EXCALIBUR-EDO」。

 銘には――江戸重通の文字。


「江戸重通……江戸初期、鍛冶と風水を組み合わせた“封刀師”か。まさか、コイツを米原に残してたとは」


「この形……ズッキーニのロゴにそっくりなんだが。お前、なんか知ってたんじゃねえのか?」


「……覚えてない。でも、ライブの最後の曲、イントロだけはやたら胸に残ってるんだ。今も、耳元で鳴ってる」


 佐倉はスマートスピーカーを起動した。保存されていたのは高校時代の最後の音源。


「Zucchini - 灯るまで、俺たち」


 重低音のイントロ。打ち鳴らされるドラムの3連符。ギターが、雨粒のように響く。


 その瞬間――

 弾薬庫の空間が揺れた。


 EXCALIBURが共鳴していた。まるで、かつて奏でられた“音”を記憶していたかのように。


 


「おいおい……こいつ、音で起動する兵器か?」


「いや……これは、思い出でしか起動しない」


 

 手に取った瞬間、悠の脳裏にフラッシュバックする。


――あの夏の夜。

――ステージの上、観客5人。

――全力でかき鳴らしたギター。

――ユウトが、最前列で拳を上げていた。


 


> 《EXCALIBUR-EDO:起動》

感情同調レベル:89%

主対象:SAKURA_HARUKA




「ズッキーニ……お前ら、バンド名にしては重すぎる遺産背負ってんな」


「音楽で世界は変わらない。だけど――残すことはできる」


 佐倉は静かに剣を掲げた。


 EXCALIBURが光を放つ。弾薬庫の天井が開き、雲間から月が差し込んでくる。


 


> ……“刀剣”ではない。これは、“記憶を形にした抗体”だ。


 ユウトが冗談のように言った。


「なあ……ズッキーニ、再結成しないか?」


 佐倉は笑った。「まずは、メンバーを掘り出すとこからだな」


 夜の米原に、再び音が響く。


🎸🎤

Zucchini - 「灯るまで、俺たち」


> ♪ 崩れた声でもいい

何も届かなくても

君の心に 一瞬だけでも

火をつけられたなら――それでいい ♫



---


🔚 エクスカリバー:回収完了

🎧 曲:Zucchini(佐倉悠・高3時代のバンド)未発表音源が再生中

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