第26話 三島ベンチャーライン《MISHIMA_SLIME_CORE》
静岡・三島市。
かつて水と火山の力を巡って数多の謀略が交錯したこの地に、今また一つの“異常事態”が発生していた。
沼津との境、国道1号線バイパス付近。
佐倉悠と黒石ユウトは、廃工場跡に出現した**「スライム反応体」**を前に立ちすくんでいた。
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> 《MISHIMA_SLIME_CORE_Protocol》
対象:旧柴田機関による
キーワード:三島市、柴田勝家、ザ・ベンチャーズ、BB弾、スライム
「……マジでこれが“兵器”?」
ユウトがぽんと足元を突いた。ぶよぶよした灰色の粘体が、まるで生き物のように逃げていく。
「柴田勝家って、あの“鬼柴田”のAI残滓だよな? 物理火力特化の戦国武将が、まさか粘性体を武器にするとは……」
悠はARデバイスを起動する。「このスライム……“弾丸を撃ち返す”性質を持ってる。素材は――BB弾由来の“高反発ナノ樹脂”だ」
「BB弾!? サバゲー素材じゃねぇか!!」
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廃工場の奥から、警告音と共にAI音声が響く。
「――此処ハ、柴田勝家ノ砦ナリ。無断侵入者、即時排除」
コンクリートの天井が崩れ、現れたのは巨大な球体構造の兵器。
《BB_鬼神・KATSU-IA》。
全身をスライム状のコアで覆い、周囲のBB弾を自在に操る制御体。
「射撃戦では不利だ……近接で行く!」
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ザ・ベンチャーズ『Walk Don’t Run』が、突如として空間スピーカーから流れ出す。
サーフギターのカッティングが、戦闘空間に軽妙なリズムを与える。
「ノリだけで殺しに来るな!」
ユウトが叫びつつも、リズムに乗って間合いを詰める。
スライムが跳ね、BB弾が空を舞い、超高速で跳弾しながら迫ってくる。
だが、佐倉は逆にその“音”を読み、跳弾の反射角度を演算しはじめた。
「やつの攻撃は音に従ってる! ベンチャーズのリズムで制御されてるんだ!」
「つまり――音を変えれば勝てるってことか!」
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佐倉は即座にデバイスを切り替え、別の楽曲を注入。
――『パイプライン』から『ダイアモンド・ヘッド』へ。
変化するテンポにBB弾の制御がズレはじめ、スライムの軌道も狂い出す。
そこにユウトが飛び込む。
携行していた**BB弾充填ARスプレッダー《狼牙・TYPE-F》**を解放。
「跳ね返すだけが能かよ……なら、“内側から詰まらせてやる!”」
スプレッダーから発射されたのは、“空洞加工されたBBダミー弾”。
スライムに取り込まれた瞬間、内部で反応し、拡張泡を生む。
粘性暴走。
スライムは自壊を始め、コアを残して蒸発した。
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戦闘後、残された《KATSU-IA》のコアに、古びた家紋の記録が表示された。
「……『我、滅びてなお“盾”たり』。勝家の精神、残ってたのかもな」
悠が静かに呟く。
ユウトがBB弾の残骸を拾いながら笑う。
「しかしまぁ……命張った割に、今回の報酬これか?」
手渡されたのは、
“BB弾ケース型のエリクサーカプセル”。
効能:一時的に精神を無音状態にする“静寂の薬”。
「……まぁ、音に疲れたときにでも使うさ」
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帰り道、車内でザ・ベンチャーズがまだ鳴っている。
> ♪ Walk, don’t run... ♫
ユウトがぽつりと言った。
「なあ悠。あのスライムの中で、ほんの一瞬だけ“俺たちの音”が混じったって思わなかったか?」
佐倉はアクセルを踏みながら答えた。
「……ああ。“共鳴”ってやつかもな」
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🎧「Walk Don’t Run/ザ・ベンチャーズ」再生中
🌊 次章予告:「箱根抗争・煙雨の交差点と、月下の咆哮」
🔫 BB弾に込められた、誰かの記憶。それすら“兵器”にされるこの時代で、なお――ふたりは走る。
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