第13話 四国編:鬼哭の水軍(前編)
――徳島・鳴門海峡。
渦巻く潮流が空と海を揺らす。
その中心に、赤黒い霧を纏った巨大な戦船が浮かんでいた。
名を、《鬼神AR:村上武吉〈暴走型〉》。
> 【属性:制海・怒涛・封鎖】
【特殊:鳴門結界/魂の潮流操作】
記録に残らぬ“水軍の怨念”が、ヴァレンティノによって呼び起こされた。
渦潮の中心に封じられていた村上武吉の魂が、いま解き放たれようとしていた。
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佐倉悠と黒石ユウトは、鳴門の旧漁村に潜伏しつつ、結界の隙を探っていた。
潮風と塩のにおい、どこか遠くから聞こえる太鼓のような海のうねり。
すべてが「何かが始まる」前の、静かな“前戯”のようだった。
「……おい、佐倉。これが終わったらさ、またあの海の家、行こうぜ」
「まだ言ってんのか。あそこはもう、思い出にしとけよ」
ユウトは笑いながら、佐倉の肩に額を寄せた。
この数日で変わったのは、戦局だけではなかった。
二人の関係も、戦場で培われた“絆”から、“確信”へと変わりつつあった。
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その夜、嵐のような風が吹き荒れる中、漁村の外れにあった廃ホテルの一室。
電気もないその場所で、彼らは体を寄せ合い、静かに互いの熱を確かめ合った。
濡れたシャツを脱がせる指先、かすかな息遣い、そして抑えきれない衝動。
それは、嵐の前の“静かな戦い”のようなものだった。
> 「お前が、死んだら俺……」
「言うな。死なねぇ。だから、信じて触れてくれ」
それは戦いを生き延びるための、前戯であり、祈りであり、誓いでもあった。
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翌朝、突入前の車内。
Spotifyが自動再生したのは、思いがけない一曲だった。
> ♪「ひと夏の経験」―山口百恵
「うわ、懐かしいな……」
「百恵ちゃん? スキップすんなよ。プレミアムじゃねぇんだから」
静かなイントロが車内に流れ、佐倉は思わず窓の外を見つめた。
> 「あなたに女の子の一番 大切なものをあげるわ」
戦場へ向かう道中には不似合いなメロディ。
だがその分だけ、今の彼らの“失いたくないもの”を思い出させてくれた。
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鳴門海峡・渦潮結界へ突入。
渦の中で、村上武吉ARが現れる。
だがその姿は、歴史に刻まれた名将ではなかった。
――鬼の面を被り、両腕に無数の錨を巻きつけた“怒りの化身”。
> 「この海は我が墓場なり……貴様らも、歴史の底へと沈めよう!」
佐倉は、鹿之介から受け継いだ剣を抜く。
「その怒り、歴史に沈めるわけにはいかねぇんだよ!」
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渦潮が天へと昇るように激しさを増していく中、
佐倉たちは、村上の“魂核”に近づこうとする。
そのとき、海底から現れたのは――
> 【新AR出現:鍋島直茂】
属性:沈黙・狡猾・隠密
「……潮が変わるぞ。ここからが“本当の戦”だ」
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次章予告:《四国編:鬼哭の水軍(後編)》
村上武吉の“記憶の断層”が語る、語られなかった裏切りと約定
鍋島ARの陰謀、そして鳴門結界の真相
佐倉とユウト、海底深くの決断――命と記憶、どちらを守るか?
> 「歴史は戦場だ。だが、愛は……命を削って守るものだ」
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