第12話 呉編:記憶の艦隊(後編)
――呉・軍港北西部、《記憶の艦隊》収束エリア。
突入から二時間。戦況は膠着していた。霧の記憶が次々と再構築され、侵入者(インヴェーダー)たちは“歴史の穴”を利用し、無限に湧き続ける。
佐倉悠と黒石ユウトは、もはや食料も水も尽きかけた戦国武将AR連合を率い、耐えていた。
> 【作戦:兵糧攻め】
「俺たちの弾薬も食料も尽きる。でも……敵も、記録のリソースが限られてるんだ」
加藤清正ARは、呉の地形を活かした兵糧戦を提案。
地下排水路を塞ぎ、記憶の霧の生成源に圧をかける。
まるで戦国の籠城戦のような知略が、ここでも通じるのか。
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一方、戦場から少し離れた、かつての呉市街。
破壊されたビルの谷間に、赤く錆びた電話ボックスがぽつんと残っていた。
「まだ通話できるのか、これ……」
佐倉が中に入ると、ユウトも後ろから続いてきた。狭いスペースに、二人。
そこは奇妙な静けさがあった。戦いの音も、ドローンの羽音も届かない。
そして――
> 「……生きて、戻れると思う?」
震えるユウトの声に、佐倉は黙って頷いた。
それは“言葉の代わり”として、唇を重ねることでしか伝えられなかった。
戦争と死の気配の中、二人はボックスの中で、時間を止めた。
ガラスの向こうに霧が流れ、空が赤く染まる。
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再び戦地へ戻る車の中、Spotifyが自動で再生を始めた。
> ♪「勝手にシンドバッド」―サザンオールスターズ
「おい、このタイミングでそれは……!」
「スキップできねぇんだよ、プレミアムじゃねぇから……!」
だがその疾走感のあるイントロが、逆に気持ちを奮い立たせた。
> 「いま何時? そうねだいたいね――って、ふざけてる場合か!」
「……いや、いいな。サザン。こういう“魂”ってのが、音楽にもあるんだな」
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決戦の地、霧の中心核に到達した佐倉たちは、天草四郎〈改変型〉と最後の対峙を果たす。
比叡の記憶霧が暴走し、“原爆の記録”が空間そのものを書き換え始めていた。
> 「それでも、君は“歴史を正す”と言うのか……?」
「いや、違う。俺は――“忘れさせない”ために戦ってる」
その言葉と同時に、佐倉は鹿之介の刀を抜いた。
> 【魂斬・七ノ型『記録断絶』】
霧を裂き、天草の核心を斬り裂く。
そこにいたのは、ただ救いを求めていた一人の少年だった。
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霧が晴れる。
戦艦“比叡”は解体され、記憶の領域は静かに封じられていった。
天草は最後に呟いた。
> 「君が持つ“意味”に……俺は、出会いたかった」
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翌朝、穏やかな呉の海。
電話ボックスの前に立つ佐倉とユウト。
「この戦いが終わっても、きっと次が来る」
「でも……俺たちはもう、逃げねぇ」
二人は再び車に乗る。スマホのSpotifyが、静かに再生を始めた。
> ♪「真夏の果実」―サザンオールスターズ
その歌声とともに、彼らは再び――四国へ向かって走り出す。
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