第10話 厳島、血に濡れる月

 広島・厳島――


 その霊峰・弥山の奥深く、かつて封じられた“武士の魂”が、再び目を覚まそうとしていた。


> 【封印異常:厳島結界に魔力干渉】


検出:異端魔術式「アカシック転写」


対応:戦国武将AR《山中鹿之介》の復元開始





 空は真紅に染まり、嚴島神社の大鳥居が、見えざる火の矢に貫かれて崩れ落ちた。  その中心に立つ者がいた。


 ――魔道士ヴァレンティノ・ロア


 西欧の異端魔術を操り、戦国武将ARを“記録の器”として強制召喚・書き換える存在。  目的はただ一つ――「歴史の魂を奪い、世界の記憶を書き換える」こと。



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 広島市街。旧・広島城跡にて。


 佐倉悠と黒石ユウトは、国道2号を突っ走っていた。 上空には無数のドローン、周囲からはガスと閃光弾、そして鎖鎌を操る剣客ARたちが跳梁していた。


 「くそっ、こいつら……まるで狩りを楽しんでやがる!」


 黒石は車から身を乗り出し、ドローンを一つ撃ち落とす。  しかし、次の瞬間――巨大な影が、街の上空を覆った。


> 【戦艦AR:比叡・幻影型】 機能:記憶の霧展開・電磁反応シールド




 旧日本軍の戦艦が、AIにより“記録から構築された幻影”として瀬戸内上空に出現したのだった。



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 佐倉たちは弥山のふもと、封じられた山中鹿之介の霊域にたどり着く。


 だが、そこには既に魔道士ヴァレンティノが待ち構えていた。  そして、改変された鹿之介ARが現れる。


> 「我が名は……鹿之介骸化式。  願わくば、我を討て」




 両目に哀しみを湛えながら、鹿之介は刀を抜く。


 かつて「願わくば、我に七難八苦を与えたまえ」と天に祈った忠義の士。  今は、魔術により“死せる剣客”として操られていた。



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 そのとき、空から蒼き雷が落ちる。


> 「討たれるための剣ならば、持たぬがよい!」




 現れたのは《上杉謙信AR》。  自らの意志で封印を破り、鹿之介を救うために現界した。


 佐倉たちは謙信の援護を受け、鹿之介の“魂核”を魔術式から切り離す。  激戦の末、鹿之介は正気を取り戻し、最後に佐倉へ刀を託す。


> 「我が剣を、おぬしの“次なる戦”に使え」



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 広島城跡地にて。


 佐倉たちは、戦艦AR“比叡”のコアが《呉・原爆記憶領域》と接続されていることを突き止める。  そこには、過去を“武器”として利用しようとする者たち――**侵入者(インヴェーダー)**の本隊が控えていた。


 そして、ヴァレンティノの背後に浮かび上がるもう一つの名。


> 【新AR存在:天草四郎〈改変型〉】 属性:奇跡・逆転・殉教の記憶


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次章予告:《呉編:記憶の艦隊》


 ・舞台は呉軍港

 ・原爆記憶領域を巡る禁忌の戦い

 ・浮上する“記録に残らなかった者たち”の怒り

 ・佐倉が手にする鹿之介の剣の真の力とは?


> 「この戦いに、終わりはない。  だが“意味”なら……俺が見つけてやる」







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