さらば、地下のトマトたち……
残業処理係について、さらに翌日。
俺は、なんだかんだ先輩とバカ騒ぎをするのが楽しかった。
食事のトマトは、賞味期限ギリギリの微妙なものが多いが、そこは目を瞑ろう。
「九六、ほい」
「あざっす、これは……食えないから処分だな」
初めは固かった先輩たちとも打ち解けあい、今では軽口を叩けるようにまでなっている。
今日もいつもの日々を過ごす……と思っていると、イッチがなにやら重要な話があるとのことでみんなを呼び集めた。
「今日、上から視察が来るらしい」
「は?」
「まじかよ」
「だる~」
「し、視察ってなんですか?」
「あー、言ってなかったな。視察ってのは上から人が来て、しっかりやってるのか確認するんだよ。業務態度とか、他にもいろいろ」
視察……めっちゃ緊張する……‼
そういえば、前世では学校の授業参観で緊張して手を挙げることもできなかった。
おかけで、限界に達して……察してくれ。
「と、とにかく‼いつも通り、いつも通り……」
***
「……いつも通り、いつも通り」
やってられるかぁぁぁぁぁぁぁぁ‼
黙々と作業をする俺達の背中には、眼鏡をかけた真面目そうな男が二人。
手にはなにやらメモ用の紙とペンを持っている。
こっそり周りを見ると、みんな額に汗をかきながら誰一人喋る者などいない。
そして偶然が偶然重なり、物事は最悪な事態へ転がってしまう。
「あ、」
尿意が限界に達しそうだ。
オワッタ。
俺は静かに青い空……真っ暗な天井を見上げる。
こんな時に黄昏ることもできないなんて。
「そこ、手を止めない」
「あっ、すみません」
必死に我慢していたら、注意されてしまった。
だが俺はそんなことでいちいち気にしないおと……あっ、これまって、やばいかも。
周りのことを気にしている場合じゃねぇ。
……俺は数分間悶えた後、ついに口を開けた!
「す、すみません……」
イッチに声をかける。
「なんだ?」
空気が張り詰める。
「すみません、なんでもないです」
聞けるはずがない。
俺が諦めて、再び悲しい真っ暗な天井を見上げると、今度は違う声がかかった。
「どうした、九六。顔色が悪いみたいじゃないか。トイレ行くか?」
ナイス先輩‼
ここは先輩としての意地だろう。
恐らく、後輩の面倒見がよいかどうかも審査対象に入るのではないだろうか。
俺は肯定し、トイレに駆け込む。
―—スッキリしているところにドア越しで聞こえた。
「後輩を数字呼び。パワハラとして減点」
「いやこれは公認だから!全員にとっての暗黙の了解だから!」
イッチの叫び声に、俺を含め全員苦笑いすることしかできなかった。
フォローできなくてすみません。
……あとなんかキャラが崩壊してきていると思います。
***
「ふーアイツらも帰り、一段落着いたな」
「何言ってるんすか。昨日までに終わらせないといけない仕事いっぱいありますよ」
視察の人達が帰ったが、まだ気を抜くことはできない。
軽く休憩を挟んだ後、各自それぞれの仕事に戻る。
すると、パソコンを打っていたイッチが俺を呼んだ。
「なんですか、先輩」
「お前は今日で、残業処理係を卒業だと上からお達しがあった。二日間、よく耐え抜いたな。荷物をまとめてサヨナラだ」
「……え?」
ちょっと待てよ。
「ぐ、お前もここまでよく耐え抜いてきたな……」
「おめでと……」
周囲から、涙声の称賛が聞こえてくる。
「え、あ、は?早くない?まだ二日だよね?先輩?」
「上からの命令に、拒否権は通用しない……」
先輩達に押されて、強制的に部屋を退出することとなる。
「先輩、俺は―—」
立ち上がり、閉じたばかりのドアに手を―—。
「ちくしょぉぉぉ‼アイツに任せたい仕事めっちゃあったのにぃぃぃ‼」
「やってられっかぁぁぁ!ひゃぁぁぁ!」
「——イママデアリガトウゴザイマシタ」
棒読みで立ち去った。
トマトは俺の嫁だぁぁ!! 闇に舞う暗躍者 @yamiver2025
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