錬金薬術師はSランク ~世界の迷宮を探索しながらご当地妖魔を倒す~

@nekobosu

迷宮都市テマセク

第1話 プロローグ

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少し修正して、構成を変えています

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「アンドレア、明日の用意はできたの?」

「準備できていますよ、師匠」


 僕は錬金薬術師である師匠とテマセクという迷宮都市に住んでいる。

 明日は僕の14歳の誕生日でツリーに行く日だ。

 ツリーというのは迷宮の横に必ず存在するタワーのことで、テマセクではツリーと呼んでいる。

 世界には必ず迷宮が1つ存在していて、このテマセクにもフォレストバレーと呼ばれる自然豊かな迷宮がある。

 迷宮は各国で形状や様態が異なる。中にいる妖魔の種類も違うらしい。らしいというのは、僕は実際にフォレストバレーを外からしか見たことがないし、他の迷宮にも行ったことがないからだ。

 迷宮は結界で覆われているので、基本的に中から妖魔が出てくることはないけど、逆に外から中に入るためには、スキルを所持していないといけない。

 スキルの覚醒が済んでいない者は結界にはじかれてしまうので、僕はまだ入れない。


 スキルを覚醒させるためには、『解放の儀』を受けないといけなくて、一般的に14歳頃に受けるのが適していると言われている。

 一般的にというのは早熟な者や晩熟な者は前後させることがあるかららしい。

 そして明日、僕はようやく解放の儀を受けられる。


「あら、随分はりきっているのね」


 錬金術師は特殊な職業で素材から武器を製造する錬金武器術師、魔術具を製造する錬金魔術師、薬草などからポーションを生成する錬金薬術師がある。どれも迷宮の素材を使用して加工する。迷宮産のものを加工するにはスキルが必須となる。

 錬金術師にはS~Dまでのランクがあり、Sランクの者から作られる物は高性能で高価なものが多い。Dランクだと廉価版とみなされ、性能もイマイチだし、当然安く売られる。

 Sランクになるためには、膨大な知識と豊富な魔力やレベルが必要となる。

 自分がどれだけの魔力やレベルがあるかは、解放の儀によってスキルが覚醒するとわかるようになる。覚醒したときに自分の魔力量が少なくレベルが低いと、生きているうちにSランクまで至るのは難しく、頑張ってもCランクと言われている。

 そして、師匠はSランクだ。そんな師匠のことを僕は尊敬しているし、もちろん憧れている。


「はい! 

 早く師匠と一緒に迷宮に行って素材を集めたり、ポーションを生成したりしたいです。

 早く師匠みたいになりたいから。」

「あら、かわいい子ね」


 師匠が僕の頬に手を添え、とろけるような眼差しを向ける。

 師匠は僕よりも少し背が低く、可愛らしい顔をしている。そんな師匠に見つめられると僕は赤くなってしまう。

 赤くなったことを悟られるのが恥ずかしくなって、僕は俯いてしまった。


「目をそらすなんて、アンドレアは私のこと嫌いなの? 師匠なんて他人行儀だわ。もうジルと呼んでくれないのね?」


 ちょっと意地悪な顔をした師匠が僕の顔を覗き込んできた。

 僕は、師匠に勘違いされて嫌われたりしたらと思い、勇気を振り絞って顔をあげる。


「そ、そんなことないです。ジル・・・好きです」


 最後は消え入るような声になってしまったけど、ちゃんと気持ちを伝えることができた。

 師匠は嬉しそうな顔をして、「じゃあ、ここにキスして」と自分の唇をトントンと指さした。


 僕の頭の中は真っ白になって一瞬固まってしまった。その瞬間、僕の表情をみた師匠の悲しそうな顔が目に入ったので、慌てて訂正するように、師匠の顎を持ち上げて唇にキスをした。つい、体がとっさの反応をしてしまった。


「あ、あの、師匠。僕は明日の用意がありますので」


 満足そうにする師匠を置いて、慌てて部屋に戻ってきた。

「明日の用意とか、

 さっき、準備が終わってるって宣言したのに・・・。

 僕・・・テンパってるのバレバレじゃん。恥ずかしい」


 僕は師匠のことをずっと母親だと思っていた。

 師匠からは母親だと言われたことはないけど、物心ついたころから師匠に育ててもらっていたし、僕の父親の話をよくしていたから。

 愛らしい顔立ちの師匠に比べて、僕はどちらかというと「端正な顔立ちね」とよく言われる。そんな僕の顔を「あの人にそっくりよ」と嬉しそうに師匠がよく話をしてくれた。

 父親の武勇伝や付き合っていた頃の話は寝物語としてよく聞かされていた。


 ただ、最近師弟関係を結んでジル呼びから師匠と呼ぶようになってから、急に過剰なスキンシップが増えたような気がする。ことあるごとに僕に触れるし、見つめられたりするようになった。

 その度に僕は赤くなり、師匠を一人の女性としてみているのではないかと思うようになった。

 ママとも母とも呼ぶように言われたことはなく、師弟関係を結ぶ前はジルと呼んでいた。 

 周りは師匠の名前であるジューリアの愛称からジュリと呼ぶ人が多いけど、僕は物心ついたときからジルと呼んでいたような気がする。

 師匠は僕を弟子にしたくはなかったようだけど、一流の錬金術師になるためには膨大な知識が必要なため、スキル覚醒前から弟子入りをして学ぶ必要がある。

 Sランクともなると弟子入りの志願者が多く訪れてくるけど、師匠は今まで一人も弟子を取らなかった。だから弟子は僕だけだし、僕は師匠の弟子になれたのだから期待に応えたいと思っている。


「期待されているかわからないけど」

 ちょっと自虐的に口から出てしまった。師匠に何を求められているのか分からない。

 師匠は僕のことをとても気にかけて世話をしてくれるし、師弟関係を結んでからは豊富な知識を与えてくれている。

 でも、時々ある過剰なスキンシップが僕の気持ちを惑わす。どう行動するのが正解なのか分からなくて、困ってしまうのだ。

 頭では母親と思っているのだけれど、師匠の態度から違うんじゃないかという気持ちがあり、師匠に対する尊敬や憧れが恋なのか母に対する気持ちなのか分からなくなってしまう。

 僕は怖くて師匠に「僕の母親なの?」と聞くことができない。


「気にしても仕方ないな。とりあえず明日は解放の儀だ。僕の錬金薬術師としてのランクが決まるんだ」


 僕は明日に備えて寝ることにした。


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