闇堕ち魔法少女(オレ)は悪の総帥の言いなり
みねし
第1話 魔法少女の一日と秘密
「んふふっ、揃いも揃って今日も大変仲良しですね。魔法少女の皆さん」
「この悪の組織め。今日こそその脳天、ガチ割ってやるんだから!」
「そこはせめて制裁とかにして? どっちが悪か毎回脳みそバグるんだから」
ツッコミのおまけで飛んでくる魔法を反射神経でギリギリ避ける。
避けたその魔法は綺麗な放物線描き、彼方に消えていく。
あっぶねぇなおぃ……!
「こらー! 会話中に魔法飛ばすのマナー違反でしょ!」
「そうだそうだ、戦いにもルールがあるんだし、ちゃんと守らなきゃでしょ」
「おまいうってやつですよ。っとと」
敵の後方に回った仲間たち、レイン・チェースとレイン・グラシの魔法はいとも簡単に躱される。
奇襲なんかなかったかのようにケロッとしてて、すっごいかッと来る。
手練れた動きた。さすが、悪の総帥とその手下ってところか。
だがこっち見たままひょろっと躱したんじゃない。魔法が飛んできた向こうに振り向き、躱わした。
「そっちばっか見てていいの?」
「オーシ様!」
「しまっ……!」
「綺麗に吹っ飛びなさい、ルクス・アロー!」
「んぐぁっ!!」
「くっ……!」
数少ない秘儀、無数な光の弾丸を相手に打ちまくる技をぶっ放し、見事二人にヒットさせる。
波動で煙が巻き起こり、徐々にその煙が消えるとボロボロの二人の姿が現れた。
慢心したな、悪の組織どもめ。
二人に近づき、魔法スティックを向ける。
「これで終わりだよ。何か言い残したいことはあるかな」
「やってくれたじゃないですか、ゴホッ」
「魔法少女のくせに奇襲とか恥じを知りなさい」
「あれ~? 奇襲が立派な作戦って言ったの、どこの誰だっけ?」
さきほど自分の発言はもう忘れたのか。
会話の中、魔法ぶっ放したそっちが言うセリフかっての。
まあ、悪の組織だし?って返し方されたら言い返しのしようがないけども。
「どっかの誰かさんたちと違って正々堂々、模範通りの戦闘しかしてないから」
「このッ…………!」
「リベル」
おちょくるったら案の定、ムキになって突っかかってきた。
プライドに触った手下と、それを総帥がなだめる。
メッチャ面白い、最高!
このままずっと吠え面かくザマ眺めて、楽しんでやりたい気持ちは山々だけど……。
もう、終わりにしなきゃ。
「手下はとっくにやっつけといたから」
「くっ」
「遺言はそれで全部かな」
他の部下どもはとっくに倒してる。要するに、残る敵は目の前の二人だけ。
魔法ステッキに魔法を集中させ、二人に突き付ける。
こんな至近距離から放つんだ。喰らったらいくら悪の組織の総帥とその部下といえど、ただじゃ済まない。
「バカね」
「っ!!」
瞬間、周りから赤黒い煙が巻き起こる。
「なにこれ!?」
「チッ、煙が邪魔……」
仲間たちの周りからも煙が巻き起こってる。
な、なんだ。一体、何が起きてるんだ。
もしかしてこれ……あいつの魔法か!?
「拘束もしないなんて、慢心が過ぎましたね」
「くっ、待ちなさい……!」
「またお会いしましょう、愚かな魔法少女たち……」
煙に奮闘してる隙に部下を回収し、ゆらゆら揺れ動く煙に紛れ、悪の組織の連中はそのまま姿を消した。
◇
「今度こそ倒せたと思ったのに、チッ」
手ごたえマックスだったというのに……。
まんまと逃がしてしまったな、チッ。
仲間たちと別れた後、愛用してる変身ポイントで変身を解き、元の姿に戻る。
「魔法少女同士、もっと仲良くして欲しいとは思うけどなぁ」
魔法少女のマスコットキャラ的な狐のぬいぐるみ、パズが待ってましたとばかりににゅっと空から姿を現して話しかけてきた。
「そういうわけにもいかないつってるだろ」
「ごめんね。いつも無茶なことばかり」
「いいんだ、気にすんな」
雑に返して帰宅のため踵を返す。
魔法少女たちは市民たちを守るため活動し、その中で苦楽を共にした仲間たちといつの間にか友達以上の関係になる。
よくある魔法少女者のアツい設定だ。
実際間違ちゃあいないがあいにく俺の場合、それは無理な相談だ。
「男のオレが魔法少女やってるって、しかもそれが魔法少女・スピアの中身ってバレたら人生詰むからな……」
そう、その理由はオレがあの子たちと同じ女子ではなく男子だから。
オレは井ノ原飛鳥。
見た目も成績もザ・普通の息しててえらいしか取り柄のない一般男子だ。
こんなオレだが何故魔法少女に選ばれたかってそれは……って、男の過去話なんか需要ナシか。
さておき、そんなオレだが魔法少女に変身すると見た目と服装どっちも何故か女子になる。
声だってもちろん変わる。萌え声みたいな、可憐で可愛い声に。
黒髪短髪の我ながら愛らしい見た目と白のドレスに包まれた姿。
口調も女っぽい可愛げのある喋り方しかできなくなる。
トランスフォームって言うらしいこの変身は、どうやらそういう仕様らしい(パズも何故そうなるのかよくわかんないって言ってた)。
だからオレは仲間たちと仲睦まじくよろしくなんて、到底できっこない。
もちろん理由はさっきも言ったように、オレが男だから。
バレた日には絶対、人生が詰む。
社会的に終末を迎えてしまう。ゲームで言えば運営の自爆によるサ終と、何一つ変わらない。
たまに夢に見るんだ。パンチラのノリで変身解かされ、オレのもう一人のオレがぽろりと露出して魔法少女の冒涜だ詐欺だとあんなことやこんなこと言われて取り囲まれて——……。
「人生潰れるわ。うん、墓まで持っていくっきゃねぇ」
「絶対、受け入れてくれるのに」
「うっせーな。魔法少女・スピアの中身がまさかこんな冴えない男だなんて、誰も思わないだろ」
「それは、そうかもしれないけど……」
仲間だなんだ言っても所詮は他人だ。
魔法少女の中身が冴えない陰キャ女子ならまあわかる。むしろ、アイデンティティーの一つになるかもしれない。
しかし、それがもし冴えない男子だったら?
さらにそれが、世間から“市民想いのボクっ子魔法少女”なんてあだ名のつけられてる魔法少女の中身だとしたら?
それを知ったら、仲間といえど一体どんな反応するか。
さすがにドン引き案件だ。それどころか、怒り狂っても全面的にこっちが悪い。
自分の好きなキャラや推しがそんなのだったらと思うと、余裕で引きずる自信しかない。
あとその「アナタは周りの目を気にし過ぎなんです」は余計なお世話だ。
「じゃあ帰るわ。今日はわりぃ、慢心してた」
「いえいえ、仕方ないですよ。ある意味いつも通りって感じでしたし」
お互いお疲れさんの意味を込めた拳のぶつかり合いしてクタクタな身体を引きずって帰路についた。
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