歌つむぎ
東山未怜
歌つむぎ
ネモフィラをどれだけ集め放ったらこの陰雲を塗り飛ばせるのか
目覚めると自分が誰かを確認す 何年生とか、定規がなくて
湯たんぽのやけどの痕と二十年この右脛にカルデラ湖あり
玉虫の輝いて飛ぶ八月は彼が呼吸をやめた次頁
あんなにも慕われていた彼の人が生を閉じ、でも、私なんかが
彼の名を検索すれば今もなおどこかにいるよう信じられない
ブンと鳴るカナブンの羽音熱風を蹴散らしてなお、どこまでも夏
そっと髪かきあげたその左手にもうつながれぬ私の右手
生まれ年の百円硬貨つり銭の四十数年さまよう痕よ
「めでたし」の結末いつも結婚でその後の姫たちいかに生きたか
いちご味シェイクのストロー吸いこんで幸せの音「ちゅるちゅるずずず」
牛奥ノ雁ヶ腹摺山を知るテレビに拝み富士山近し
このところ鼻の隣に住んでいたニキビと別れ荷が軽くなり
ショートヘアそしてメンズの服ばかりなりたいものは男であった
永いこと子どものままでいたかった女になるのが嫌だったんだ
ただじっと卵を温めるのなら私も誰かの母だったのに
いつのまにこの容れ物を受け入れた君に出会えたよろこびの中
母という字は両腕を広げたり私を抱こうとしている母さん
十五夜のさやけき光を浴びているあなたもわたしも月の申し子
華やかな投稿見るたび押している「いいね」はつまり「どうでもいいね」
苦手な人に大嫌いなハミガキあげたもうそれですっきりした
うちで飲むこのワインよりあのワインあのワインバーで飲むあのワイン
カシオレを飲むと女になりそうで敬遠してた眉細いころ
彼の愛、ブルームーンを勧められ パルフェ・タムール飲み干してみる
バレンシアつくってくれたバーテンダーあの日あのとき初恋でした
いつだってマスクの下に隠れたい めぐる季節に足がすくんで
書き初めの「友だち」という文字重く筆持つ子の背ドラマを秘めて
手をつなぎふたり歩きの遠き日よ秋の記憶は黄色い匂い
冬眠をしていたかった冬ばかり寒くて眠くてなぜか独りで
不器用で蝶々結びも怪しくてその指先で歌を編んでる
歌つむぎ 東山未怜 @kalsha
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