第12話 Continuityの脅威

「適当に座ってくれ。冷たいお茶でええかな?」

「大崎さんはそのままで。わたしがやりましょう」


 勝手を知っている様子で司が人数分のグラスとペットボトルのお茶を用意した。

 グラスに注がれたお茶に手を出しながら、大崎は言った。


「奈良に戻ってきたゆうことは、君の方の準備が整ったゆうことやね?」

「はい。自分なりに勉強し、身を守る準備もしました」

「そうか。最近奈良で物騒な事件が起きたんは知っとるね?」

「玉塚古墳のことですか?」


 健人はネットニュースのことを思い出していた。盗掘現場には争った跡があり、血痕が残っていたと言う。


「わかっているなら、首を突っ込むな。悪いことは言わないから、東京へ帰れ!」


 グラスに口をつけもせず、腕を組んだままの零士がぴしゃりと言った。

 どうやら零士は健人が活動に加わることに反対らしい。同じ年頃の健人に反感でもあるのか。


「お前はこの活動の危険さをわかっていない!」

「どういうことですか?」


 零士がムキになる理由がわからず、健人は三人の顔を見回した。


「それを説明するにはあたしらのことを知ってもらわんとな」


 大崎はグラスを置き、居住まいを正した。


「我らは飛鳥時代から大和のささぎを守る『防人さきもり』の末裔だ」

「防人?」

 

 眉を寄せた健人に、大崎は防人の役目を教えた。


「御陵、つまり天皇家の古墳を盗掘から守る。それがあたしら防人の役目や」


 古墳の盗掘は驚くほど少ない。それは盗掘から御陵を守る防人の存在あればこそであった。

 正倉院の宝物が現代まで盗難を免れているのも防人の働きによるものである。


はか盗人ぬすっとは時に武装して現れよる。それを撃退するためにあたしらは武技を身につけ、代々伝えてきた。あたしらはそれを『影の流れ』と呼ぶ」


 合気道と空手を合わせたような体術を基本とするが、様々な武器も必要に合わせて使う。極めて実戦的な総合武術とでも呼ぶべき体系だった。


「剣術の一部が外部に伝わり、体系化されたんが『陰流』や。それは後に『新陰流』へと発展した」


 銃刀法で縛られた現代では、武器を持ち歩くことはできない。そのために防人たちは一見武器には見えない道具を持ち歩き、万一に備えていると大崎は言った。


「それがこれや」


 大崎がカバンから取り出したのは先端にボールがついた棒のようなゲームコントローラーだった。


「それは……」

「そう。モーションコントローラーや」


 明治、大正までは密教法具である独鈷とっこしょを持ち歩いていたそうだ。昭和に世が変わると、それでは目立つようになった。仕方なく、昭和初期からは「懐中電灯」に偽装するようになった。


「令和の現代に懐中電灯を持っとるのは夜間の警備員くらいやからね。武器に見えず、持ち歩いとってもとがめられないものとしてを選んだんや」

「こんなものが武器になりますか?」


 モーコンの素材はプラスチックで尖った部分がない。こどもが使っても安全なように設計されている。

 それを使って、どう敵を倒すのか?


「こいつは打撃武器でも刺突武器でもない。スタンガンや」


 安全装置を外してボタンを押しながら敵に接触すると、高圧電流を流すという。


「スタンガンの携行も法律で禁じられてるはずじゃ?」

「見つからんかったら罪にはならん」

 

 いけしゃあしゃあと、大崎は言ってのけた。

 たとえ職務質問で持ち物検査を受けたところで、完全に分解しない限りスタンガン機能に気づかれることはない。


「いざとなったら警察、検察の中枢とは協力関係ができとんのや。表と裏で日本の歴史を支えてきた間柄や」


 逮捕状が出ることなどあり得ないし、事件として送検されることもない。防人が持つ非公式の特権であった。

 彼らの存在が表面に出ることは決してない。


「それじゃあ玉塚古墳の一件は……?」


 盗掘を防ぐことに失敗したのか? 現場に残された血痕は誰のものか?


「敵の力が予想以上やった。相手も古代から続く強力な組織やったンや」


Continuity連綿」、彼らは自分自身をそう呼ぶ。歴史とともに途切れることなく存在する闇の勢力だった。


「警備に当たっとった零士の兄が大怪我をした」

「えっ?」

「敵はナイフで武装していただけやなく、錬金術・・・を操る。零士の兄は電撃で自由を奪われ、ナイフで肩を刺された。幸い命に別状はなかったが、出血が多くてな。今も入院中や」


 大崎の言葉に、零士はこめかみに血管が浮きでるほど奥歯をかみしめた。握った拳が小刻みに震えている。


「錬金術? 実際に使える奴がいるんですか?」

「ああ。彼らの中の幹部クラスは『pieceピース』と呼ばれる『かけら』を持っとる」

「かけらって……何の?」


「もちろん『賢者の石』のや」

「実在するのか!」


 大崎の言葉に健人は驚愕した。

 ならば、父兼家や叔父豪の研究もまっとうな価値を持つ研究だったのか。


「わかっている範囲でいえば奴らが操る錬金術は、電撃、閃光、高熱を術者の手から発生させる技だ。『piece』は術を発動させる媒介や」


 まるで魔法のような術をContinuityの幹部クラスは操るのだという。


「脚の悪い学生が探偵ごっこで立ち向かえる相手じゃない。お前は東京へ帰れ!」

「何だと!」


 眉を怒らせた零士が健人を煽った。罵られて、健人もムキになって立ち上がる。


「まあ待ちなさい。まだ話は終わってへん」


 大崎は手を挙げて二人を抑えた。


「確証はないんやが、健人君の叔父である吉田豪氏もContinuityとの遭遇後に姿を消した形跡がある」

「えっ?」

「何だと!」


 大崎が告げた事実は零士にとっても初耳だったようだ。健人とともに驚きの声を上げた。


「Continuityによって拉致されたか、自ら姿を隠したか? これは最悪の場合やが、命を落としたことも考えられる」

「その後のことはまだわからないんですね?」

「その通りや。姿を消した状況も闘争の痕跡が残っとるだけで、何があったんかはわからへん」


 その頃、大崎たちは奈良県内の古墳周辺に現れる豪を監視していた。その豪が、忽然と姿を消した。

 豪の立ち回り先を調べると、複数人が入り乱れて戦ったような足跡を発見した。

 

 未盗掘の古墳近くであったこと。豪の足形が見つかったこと。立ち入り禁止エリアに28センチを超えるサイズの足跡が多数残され、地面が踏み荒らされていたこと。


 そして盗掘の跡が残っていたことから、大崎たちはContinuityの仕業であると推定していた。


 健人を事件に巻き込まないために、大崎はそれらのことを隠していたのだ。


「足跡の大きさが正体と関係するんですか?」

「彼らの大部分はヨーロッパ人や」


 錬金術は西洋で生まれた神秘学だ。それを秘術として守り伝えるContinuityは当然ヨーロッパを本拠とする組織だった。


 吉田豪は抵抗したものの、Continuityによって拉致された。大崎は事件をそう解釈していた。


「現場の状況から見て、豪氏はその場で殺されてはおらんようや」


 一人の人間を殺害したとなれば、血痕なり体液なりの痕跡が現場に残る。たとえふき取ったとしてもだ。


「叔父さんはContinuityに監禁されている可能性があるんですね?」

「思い込みは危険や。事件からは大分日にちがたっとる。悪いが、既に殺害されたゆう可能性も否定できん」


 大崎たちとて手をこまねいていたわけではない。秘密裏にContinuityと豪の行方を捜索したが、成果を上げることができなかった。


「豪氏が発掘品を捏造したゆうスキャンダルがあったやろ? 実はアレを流したンはあたしらや」

「何だって!」


 思いがけない大崎の告白を聞き、健人は憤りの声を上げた。

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