第3話 そっちか

「今日もお世話になっちゃって悪いね」


友人のA子は大学で初めてできた友達だった。

隣県から2時間ほどかけて大学に通っている。 翌日が1限の日は前日に私の家に泊まることがあるのだ。


「全然!夕飯代も割り勘になるし」


私はそう言うと、バイト先で買っておいた総菜をテーブルに並べ始めた。

2人で夕飯を食べながら、講義のレポートの愚痴や、バイト先の気になる男の子の話題に花が咲いた。


2人で食卓を片付けた後はA子、私の順にシャワーを浴びる。

これは何となく決まったルーティンだ。


私がシャワーを浴びて出てくると、なぜかA子がいつものスウェットではなく、シャツにデニムパンツを身に着けていた。


「え?どうしたの?」


私が問うとA子は、


「アイス食べたいからコンビニ行きたい。一緒に行こう」


と誘ってきた。


私もA子も入浴後の外出はありえない派の人間だ。

訝しみながらA子に聞く。


A子の顔はいつになく強ばっており、声もわずかに震えているように聞こえた。


「太るよ…?てか、もうシャワー浴びたからヤだよ」


「良いから!私おごるし」


いうが早いがA子は財布とスマホをもって立ち上がった。その手は微かに震えていた。


「じゃあ私も着替え…」


「早く行こう」


A子の声が、焦っているかのようにいつもより高かった。


A子に気おされるようにして私はジャージ姿のまま、家のカギとスマホを持ってマンションの部屋を出る。


エレベーターに乗って、エントランスを出る間、A子は無言だった。ただ、私の手を握る力が、やけに強かった。


「…A子?どうしたの」


A子は何も応えない。


マンションのエントランスを出ると、私の手を引いて足早に歩きだすA子。


「ちょっとA子…速い…」


コンビニの前までくると、A子は立ち止まってこちらを見て、ゆっくりと口を開いた。その顔は青ざめていた。


「110番して」


「どうして?」


A子は息を大きく吸い込み、途切れ途切れに話し始めた。

その声は震え、途中で言葉に詰まりそうになる。


「あんたがシャワー浴びてる間、なんとなく床に寝転んでたら見えたの…」


「見えたって、何が?」


A子の視線は、私の部屋の窓がある方へと向けられていた。


「目隠しシートが貼られていない窓の外に…男の足があったの。じっと、こっちを見てるように、ただ立ってたの…」






あぁ、なんだ、か。


<<了>>

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はがれた目隠しシート 久保隆@2分で読める怪談ライター @tk_kubo0628

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