宅配便

のの

「最初は間違えたんだろうなと、思っていたんです」


 両手を膝の上で強く握り目を伏せながら目の前に座る女性、及川美香は震える声で言った。鉄格子で囲まれた小さな窓から、彼女のパイプ椅子に微かな光が反射している。外の騒音が微かに耳に入ってくる。空気がひんやりと冷たくて、少しアルコールの匂いがする。部屋の隅で議事録を取る女性刑事が視線をこちらに送りながら、タイピング音を響かせている。白い壁紙が目に付く部屋の中心に、彼女と小さな机に向かい合うようにして座っていた。

「自宅のマンションには宅配ボックスがついていて。私よく通販を利用するので、便利だしセキュリティもしっかりしているから良いなあと思って住むことにしたんですけど、まさかこんなことになるなんて」

 彼女は思い出したのか話すのを止め、顔を真っ青にしながら冷や汗をかいている。このまま続けるわけにいかないと、思って彼女に声を掛けた。

「大丈夫ですか。少し休憩しましょうか」

 深呼吸をし、彼女は自分の背後を何秒か見つめたかと思うと怯えながら目を逸らした。何かあるのかと疑問に思い、背後を振り返ってみるが白い壁が広がっているだけである。彼女の方に視線を戻し、自分と目が合うなり彼女はゆっくりと頷いて言った。

「ごめんなさい、少しお手洗いに行っても良いですか」

「どうぞ」

 議事録を取る女性刑事を見ると、女性刑事は頷き、議事録を取る手を止めて彼女に駆け寄った。女性刑事は彼女に手を貸しながら取り調べ室を出て行った。次彼女に取り調べが出来るようになるまで時間がかかりそうだと、溜息を吐く。先ほど彼女が自分の背後を見ていたことが何だが引っかかる。テレビなんかで見るマジックミラーなんかを想像したのかもしれないが、警察署全部の部屋にマジックミラーがついているわけではない。重要な事件の取り調べが行われる時が主だ。この部屋にそんなものはついておらず、普通の部屋と変わらない。

 一人きりになった取り調べ室は息苦しくて、誰かに見られているような感じがする。取り調べというだけで肩に力が入るのも少し分かる。ちょっと自分も休憩をしようと取り調べ室を出ようと立ち上がり、ドアノブに手をかける。


 おーい。


  後ろから変な声がして、さっきよりも自分を見つめる強い視線を背中で感じる。空気が張り詰めたように重くて、さっきまで聞こえていた外の騒音が何一つ聞こえない。背筋に冷たい汗が流れて、いやーな緊張感が走る。今は無い、普段は腰についている銃を軽く触るふりをしながら、一つ深呼吸をする。この部屋には自分以外誰もいないはずなのに、なんの音だろうとゆっくり振り返る。


 そこには誰もいなく、さっきまで取り調べをしていた机とパイプ椅子が置かれているだけだった。ため息をつくと、軽く伸びをする。もしかしたら自分は疲れているのかもと思い、取り調べ室を後にした。

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