『雨女と傘一本』
志乃原七海
第1話「また雨だ……」
雨女と傘一本
「また雨だ……」
思わずため息をついた。何度目だろうか。彼とデートするとなると、決まって空は泣き出す。青空の下、手をつないで歩くなんて、我々には許されない宿命なのかもしれない。
「ほら、ごらん?雨も悪くないだろう?」
彼はそんな私の顔を見て、悪戯っぽく笑う。その笑顔に、私の鬱屈とした気分も少しだけ晴れる。
「だって、雨って嫌なんだもん。せっかくのデートなのに、髪も服も濡れちゃうし」
「大丈夫。傘一本で済む話さ」
そう言って、彼は私の肩を優しく抱き寄せた。彼の体温と、傘に当たる雨粒の音が、不思議と心地よかった。
「それに、雨だと、こうしてくっついて歩けるだろう?」
彼の言葉に、私は思わず顔が熱くなるのを感じた。確かに、雨の日はいつもより、彼との距離が縮まる気がする。
「私、雨女なのかなぁ」
冗談めかして言った私に、彼は「そうかもしれないな」と笑い、「でも、雨女と一緒なんて、最高じゃないか!」と続けた。
「え?最高?」
「うん。だって、僕のために空が泣いてくれるってことだろう?こんなに愛されてる証拠だ!」
彼の強引なまでのポジティブさに、私は思わず笑ってしまった。そうだ、彼ならきっとそう言うだろう。雨だろうと、晴れだろうと、彼と一緒にいられるなら、それで十分なのだ。
「ありがとう。なんだか、元気が出てきた」
「それがいい」
彼は私の頬を優しく撫でた。
「さあ、行こう。雨の日のデートも、僕たちだけの素敵な思い出になるさ」
私は頷き、彼の腕にそっと寄り添った。傘一本で、私と彼の世界は、雨色に染まっていく。それは、決して悲しい色ではなく、むしろ、二人だけの特別な色のように思えた。
雨粒が傘を叩く音に混じって、彼の楽しそうな声が聞こえてくる。逃げ道なんて、どこにもなかった。むしろ、この雨こそが、私たちがより一層、強く結びつくための、甘い魔法なのかもしれない。私は、そんな雨の日のデートを、これからも愛していこうと、心に決めた。
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