逃げる闇
sui
逃げる闇
遥か昔、この世界には“闇”しか存在しなかった。黒は生まれた時からすべてであり、人々はその中で目も心も閉じて生きていた。
けれどある日、空の裂け目から一筋の光が落ちた。それはとても小さく、弱々しいものだった。それでも、闇は震えた。光が何かを変えることを、本能で知っていたからだ。
闇は逃げた。
地の底へ、森の奥へ、山の影へと。人々には見えなかったが、その逃げ惑う姿は確かに世界のあちこちに残された。黒い影が長く引き延ばされた場所。誰も足を踏み入れない洞窟。夜よりも深い色の湖。
それらは、すべて“逃げた闇”の名残だった。
だが、闇は完全に逃げ切れなかった。
光は確かに広がり続けていた。空の隙間は広がり、陽が生まれ、星が瞬き始めた。
それでも、闇は諦めない。光の届かぬ場所に潜み、わずかな影を集めて、生き延びようとする。
世界のどこかに、闇がまだ走っている。
それは、消えることのできないもの。
だけど、いつかきっと——
光は、逃げ切った闇さえも抱きしめるだろう。
逃げる闇 sui @uni003
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