第2話 好きなんて言われたことない
「す、好きって……そんな直球な……! 冗談だろ?」
俺は、揶揄われているのだろうと思い、慌てて、椅子から立ち上がった。すると、神崎さんは、そんな風に立ち上がった俺の顔をまじまじと見つめるように、ぐいっと上半身を向けて、両手を後ろで組んで立っている。
「冗談じゃないし、揶揄ってもいないってば。本当にショックだったから……中澤君に振られたの。こんな時に、奏太くんに慰められたら嬉しくなっちゃう」
神崎さんは、寂しそうな顔をしてから、嬉しそうな表情に変わっていき、俺に明るく微笑み掛けた。そうだ、その笑顔っ。神崎さんは泣いているより笑っていた方がいい。
この言葉を口に出そうと俺なりに頭の中で言葉を整理して努力してみたものの、なかなか上手く言葉にできなくて黙り込んでしまった。
「どうしたの? 顔赤いよ」
嬉しかった。神崎さんのことは、校内一の美少女ということもあって少なからず気になっていたから、人として好きと好意を向けてくれて、なんか嬉しい。でも、顔赤くなってたのか、俺。
「好きって言われると、なんか照れるなぁ……。あんまり好きって言われたことないからさ」
「そうだよねぇ。こんな風に直球に人から好き! って言われたらちょっとドキドキしちゃうよね。私も思わず、口に出ちゃった。だって本当に、慰めてくれたの、嬉しくて……」
俺はそんなに深く考えずに、クラスメイトとしてさりげなく慰めただけだったけど、こんなに神崎さんの心に響くとは思わなかった。やっぱり親切はしてみるものだなぁ。
「よし……。じゃあ、俺、帰るね」
「ええっ?! 先帰っちゃうの? 1人で? 一緒に帰ろうよ!」
一緒に帰る?! いやいや。カップルなわけじゃないんだから。一緒に帰ったら、神崎さん、俺のこと恋愛対象として好きって思われちゃうだろ。
てゆつかそもそも好きなんて、あんな直球にドキドキさせる形で言うから、俺だって、少し勘違いしてしまうじゃないか!
「駄目だって! 神崎さん、俺のことが恋愛対象として好きって勘違いされるよ?! それこそいつの間に、俺と神崎さんが付き合ってたんだって周囲から変な目で見られるって!」
「え? それっていけないこと?」
「駄目だろ、神崎さんにはちゃんと恋愛対象として好きだった人もいるんだし、俺なんかとそんな人から誤解されるような行動を軽くとってはいけない」
「えー。結構、本気だったんだけど。奏太くんのことが好きって。恋愛感情90%くらいあった」
恋愛感情90%くらいあった?! え、さっきの本気で冗談ではなくて、人としての好意でもなくて、軽く友達同士のノリで好きって言ったんじゃなかったの?
「恋愛感情90%って……。中澤君と俺と。どっちに向ける好意が大きいんだよ。神崎さん、あんまり簡単に俺に好きって言うから、よく分からない」
「奏太くん!」
即答だな。中澤君に振られて、そして俺が慰めて、そんなにすぐ気が変わってしまうものなのか。乙女心、特に思春期の乙女心というやつはよく理解できない。
とにかく俺は、今、目の前にいる校内一の美少女、神崎実桜里に、恋愛感情を深く向けられているらしい。何この展開。その辺にある人気のないありきたりなラブコメみたい。いや、ありきたりどころか、これでいいのか? というような展開なのだが……。
「一緒に帰ろ♡ 奏太くん」
俺は、麗しくて可愛らしくて艶やかな瞳で真っ直ぐ見つめられて、断れるはずも無かった。コクンと大人しく頷き、俺は神崎さんと一緒に下校することになった。
嬉しくないと言えば嘘になるが、でも、これでも、校内一の美少女に好きと言われてすぐに彼女の虜になってしまうほどの男ではない。俺にも好きな女性の1人くらいちゃんといるんだから。
ていうか、よく考えたらさっきのって告白? 告白だったっぽいよね。まあいいや。俺はすたすたと昇降口まで帰ることにした。
あまりいちゃつくと誤解されるし。神崎さんは誤解されても構わないどころか、俺と付き合いたいぐらいの温度で俺のことを着いてきているけど。
「奏太君、歩くの早いよっ! ねぇ、何でそんなにすたすた歩くの?! 待ってってばあ」
「お、俺は、あなたの彼氏じゃありませんから! そんなにすぐに気がコロッと変わって俺のことを好きになってもらっても困りますっ」
「ちょっと、何なの?! さっき、私が好きって言ったら嬉しそうな顔してたくせにぃ」
うっ。確かに俺は顔を赤らめて、嬉しそうな顔をした。実際嬉しかった。でもそれは人として好きって程度で、まさか本気でこんなに恋愛感情90%くらい、中澤君よりも好きって言われるくらいの熱い温度で好意を向けられるとは思わなかった!
「待ってよ! 奏太君ー!」
気がつけば俺は昇降口から出ると走っていた。そして、神崎さんも俺のことを追いかけてくる。何なんだこれは……。1人呆れた表情をしながら俺は気がつくと走って近くのコンビニで、はぁはぁと息を切らして立ち止まっていた。
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