『改めて、私の事務所に入りませんか？』

『断る。と言ったら？』

なんで、私じゃなくてあんたが言うのよ！

ていうか私抜きで話を進めんな！

『死人は黙っててもらっていいですか？　これは、私と椿さんの契約の問題。部外者が口出ししていい問題じゃない』

：なんか、盛り上がってきたな

：小椋って奴、たしかナツホさんのアシじゃなかったっけ？

：え？　あのダンジョン不動産王が？

『そもそも、こっちが判断することだけど......。悩むな～』

『なら、対決で決めませんか？　私と洞井戸さんで』

『私じゃなくて？』

『決めるのはあなたですよ。もちろん。この対決で、私が勝てば私の意見を飲む。彼が勝てば彼の意見を聞き入れましょう』

『おう、上等じゃねえか。てめえが俺の料理をけなすってんなら自信あるんだろうなぁ！？』

『負けてもいいのなら、構いませんよ？　料理対決といきましょう』

：なんかよくわからんけど、面白そうな企画きたー

：配信者置いてけぼり案件で草

：おもしろいならなんでもいいです

『さ、さあて突然始まりましたダンジョン料理対決！　さて、私の舌を魅了する料理を作ってくれるのは誰か！　というか、そんなことで事務所への所属するかどうかなんていう人生の選択を握らせないで～！？』

：それにしては楽しそうでなにより

：同接10万だと！？

：跳ね上がってまいりました！

『気を取り直して、ダンジョン料理対決スタートです！』

私の合図と共に、ナツさんと小椋さんはさっき採ってきたきた材料を奪いあいながら、料理を始めた。小椋さんは、始めに自分のカバンから食パンやチーズを取り出した。もしかして、洋食にするつもりなのかなぁ？　ただ、あいかわらずナツさんは飯盒炊爨用のご飯釜と、使い古された圧力鍋を取り出して水やら米を火にかけ始めた。

『どうやら、小椋選手は洋食。ナツさんは宣言通り　鍋を作るつもりです！　おっと、小椋選手！　パンをちぎり始めた！　一体これは......！？』

もしかして、グラタンでも作るつもりなの？

ていうかオーブンあるの？　軽そうな装備で！？

『君の想像通り、グラタンにするよ。でも、ここはダンジョンだし、ちょっとした工夫をしようかな。オーブンないしね』

『オーブン無しで、グラタンを！？　なるほど、面白い戦略です！　続いて、ドーナツ選手、進捗はいかがです......！？　味噌？！』

『ああ、みそ鍋だ。これに限る。あとは塩もみして細切りにしたダークマターと、アラクネの肉をつくねにして、野菜をいれたら完成だ』

：めっちゃ簡単

：全体的に、なんか黒い......。

：見た目が......。

：ﾎ"ｴ"ｯ！！

『さ、さて......。小椋さんの方はっと......⁉？？　なんだこれは！！』

スライムの中に、野菜や具を包んでフライパンで焼いてる！？

もしかして、アルミホイルで焼く的な！?

『これは、スライム包みって言う私の考案した料理法です。アルミホイルでハンバーグを焼くように、じっくりと時間をかけてチーズを焦がしておいしいグラタンにします』

『え、でもスライムって水分結構含んでるんじゃ......』

『ふつうは１～２週間天日干ししたものを使うんだけど、今回は遠心力で回転させながら干したもので時短にしてるんです。スライム種は意外に味を吸収するので、アルミホイルと違ってそのまま食べられますよ。味変ってやつです』

『なるほど、では両者出来上がったようですので！　早速頂いていきましょう！』

私達はテーブルと椅子を用意し、そこに座った。ちょうどよく私のお腹がなった。そして、ナツさんの作った見た目真っ黒なと、同じく黒くて丸い小椋さんの料理が並んだ。

『結局、どっちも黒い料理に着地するんだ......』

ボソッと呟くと、小椋さんは一味違うぞと人差し指を動かした。すると彼は、ナイフで丸くて黒い物体を斬り始めた。すると、そこから焦げたチーズと彩り豊かな野菜が混ざるグラタンが出て来た。

『ボナペティ（召し上がれ）』

：え、なに？

：ボナペティ（おしゃれ並感）

：急に何語！？

『ぼな？　まあいいや。いただきます！』

スプーンで一つすくい、口に含んだ瞬間、チーズのとろみで熱く舌を焦がす。続いて、キノコや野菜のうまみ、そしてホロホロと崩れてくる肉。これが、アラクネの肉？　なんか、カニカマみたい。しかも、めっちゃ蟹に寄せてる高級な奴。続いて。これらを包んでいたスライム、もといダークマターごと頂いてみる。すると、コリコリとした触感ととろりとしたチーズとがベストマッチ。きくらげ、とかそういったものに近いな。最後のパンで、食感がまた変わっておいしい。正直、優勝......。

『おいしい......。じゃあ、次。ナツさんね』

『なんか、消化試合みてえなテンションだな』

不貞腐れる彼をよそに、私は次にナツさんの鍋を食した。まあ、普通においしい。正直家庭的で好みだ。赤味噌だしで、アラクネのつくね団子が効いている。しかも、あのダークマターが、白滝みたいになってる。ごはんが進む。進む。

『意外と、あり......』

『なんだよ、好きなんじゃねえか』

『ホラさんの味噌が禁止カードなんですよ......。それ、独自みそでしょ』

『なんでもありにしたのは、そっちだろ。じゃあ、選べ。どっちがうまかった？』

......。正直、選びきれない。どちらもおいしかった。問題は、私がどうしたいかだ。事務所に所属するか、このまま個人として続けるか......。それは別問題だ。

『どっちもおいしかった。でも、しいて言うなら小椋さん』

『ほらね。では、私の意見に賛同するという』

『それとこれは、別！　事務所の所属はちょっと考えさせて。事務所は、私達二人が納得することが条件！　だから、相棒（あなた）が嫌がるなら私は行かない』

ナツさんの顔を見ると、彼は面食らって目を見開いていた。

『お前......』

小椋さんも驚いているようで、なにも言い返してこなかった。だが、彼は戸惑いもせず笑いかけた。

『あなたが言うのなら、仕方がありません。ここは手を引きましょう。ですが、私はまだ諦めません。あなたも、まったく気がないというわけでもなさそうですし......。もし、気が変わったらご連絡ください』

小椋さんはそう言って、ダンジョンを後にした。

まったく、不思議な人だったな。でも、あんなに嫌悪感丸だしなナツさんも初めて見たな。