13:唐突な勧誘はじまったんだが?
『じゃあ、次は実際に狩ってみるか?』
:お、いいっすね~
:じゃけん、狩っていきましょね^~
:他の料理も見たいぜ!
『やるけど、焼き以外の料理方法知ってるのぉ? ナツさん』
『うっせえなぁ、豪勢にしたいんならしっかり働けよ』
私達は宝箱のある場所から、少し歩き始めた。そして、ナツさんの教えられたとおりの道沿いを行くと、徘徊者が複数移動している大きな広場に出た。
『な、なにここ......』
『たぶん、ここで元々モンスターが出現してたんだろうな。今となっちゃ、放牧もいいところだがな。ここが一番のおすすめだな。で、狩りのおすすめは、あそこで群がるダークマターだな』
『ダークマター? なんそれ』
彼の指さす方向には、黒くてぷよぷよしたものが地面を這っていた。
『スライムの徘徊化した状態のものだ。通常だとスイーツにしがちだが、こいつは鍋に入れるほうがいい。よし、鍋にすっか』
眼をキラキラさせると、彼は包丁を二本取り出してそのうち片方を私に渡してきた。
『これは、食材ドロップ確率を上げる武器だ。徘徊者にも効き目があるのは実証済みだ。これで、お前も戦え』
『え、ええ......? あんな気色悪いのと?』
『大丈夫大丈夫! いつものスライムだと思え!』
分かってはいるけど、色が違うだけでここまで気持ち悪さ跳ね上がるとは思わんかったわ......どうにせよ、スライムは苦手だな。私の鞭とは相性が悪い。
『なら、普通は炎か、剣だよな......。炎で牽制しつつ、もらった包丁でダメージを与えて行くしかないか』
私は鞭を利用して、1体のダークマターを引き寄せた。左手に包丁を持つのはやりずらいが、切り刻む! スライムが目の前で黒いしぶきを上げて細切れになると、汚れた自分の顔をふき取りながら後ろでドロップしたアイテムを拾う。スライムのコアと、スライムのゲルだ。よし、これでもっと集めるぞ!
『まだ一体なのか? こっちはもう8体も集めてるぞ。もう1体狩ったら場所移動だ』
私は彼の声を聴きながら、スライムをもう1体倒す。
『なれないんだから仕方ないでしょ! はい、これで10体!』
『よし。じゃあ、今度は少し戻ってアラクネを狩りに行くぞ』
『アラクネ? もしかして、クモみたいなやつ?』
『ああ、知ってるんだな』
『知ってるというか、見たことある? 前に来た時にね』
『ふーん......。なら、これ知っておけ。アラクネはあらゆる蟲の女王だ。やつがいるってことは、その場に50匹くらいは湧くと思っとけ』
『想像しただけできっしょ......』
:最悪
:無理無理無理
:これ、グロ指定でBANされない? 大丈夫?
:大丈夫だろ、虫湧いただけでBAN喰らったやつみたことねえもん
コメント欄も私同様、見たくない光景だなと思いつつもただこれだけは気になる。
『ねえ。それで、おいしいんでしょうね......。 そのアラクネってやつ』
『味は、保証する』
『なんでちょっと、溜めたのよ。ま、いいわ。それなら耐えられる気がする』
ナツさんの指示で向かった先の洞窟に辿りつくと、彼の言う通り蟲だらけだ。ただ、狙いはアラクネ。きっとこの奥にいるはずだ。
『よし、さっさと倒して飯にするぞ』
『そうね。こんな気味悪いところ、さっさと画面切り替えたいだろうし』
そう言って、私達は二手に別れてアラクネ探しに向かった。私はすぐに、蟲たちを炎の指輪で炎の属性が付与された鞭で這いよる虫たちを消していく。 ただ、光に集まるのが習性なのか、寄ってくること寄ってくること。もしかして、女王を守ってる?
『気にする必要ないか』
蟲を一掃していくと、奥にアラクネの巣が張り巡らされていた。ここが、アラクネの巣か......。いよいよボスのお出ましってわけね! 息巻いて戦闘準備に入っていると、突然体が浮き始める。上を見ると糸が私を釣り上げていた。もしかして、アラクネ!?
「シャアアアアア!!!」
するすると糸を巻き上げ、口を広げて待つクモ。 私はそれに抗うことなく、逆にその糸を利用してアラクネに近づいていき、躊躇なく包丁を突き立てる。
『うわっ、なんかキモい液体かかった!?』
顔を拭い、包丁を再度突き立てるもアラクネはしぶとく頭を振り回して私を振り落とす。生命力どんだけだよ! 糸を引きちぎられた私は、包丁から手を放してしまい地面に落ちて行く。
『おいおい、大丈夫か? お嬢ちゃん』
不可抗力とはいえ、ナツさんは私をお姫様だっこしていた。
これは私の運がいいのか、それとも彼が落下地点に待っていてくれたのか......。
『な、ナツさん......。あんたどこ行ってたのよ!』
『フン、そこまで啖呵切れるなら上等だ。待ってろ。すぐ片づける』
そう言って、彼は私を乱雑に地面に落として、私が刺した包丁と彼の持っていた包丁の二刀流でアラクネを討伐していった。その太刀裁きは、魚をさばく鮮魚店のおじさんのように鮮やかだった。というか、蟹かな?
『よし、これで準備万端。ここいらで、飯にするか』
私が頷き、鍋の準備をしていると、どこからか人影が現れた。
「鍋にはお野菜も必要、ですよね? 洞井戸さん」
颯爽と現れたスーツの男性は、竹かごに野菜を持って、笑顔で私たちをもてなそうとしている。いや、あまりに出方が不自然すぎ......。いつからいたの?
『お前、名月!!』
み、みょうげつ? もしかして、配信事務所『ディグオグ』の小椋名月さん!?
なんでこんなところに? ていうか、ナツさんと知り合いなの?
『おやおや、スライムとアラクネの鍋ですか。これまた、珍妙な......』
『てめえ、何しに来た! よく俺の前に平気な顔で出て来たなぁ......』
『にしても、洞井戸さんの料理センスは変わってない。彩りも、味付けも一辺倒。乙女心がわかっていないと見える』
『てめえ、無視すんじゃねえぞ。殺すぞ』
「ちょ、ちょっと! 配信中! もっとオブラートに!」
配信にギリギリ乗っからない程度の小声で私がナツさんに窘めるも、彼は一向に私を見てくれない。それどころか、恨みつらみが目からあふれかえっていた。一体、どういうことなんだ......? それに、この人は何しに来たんだ?
『それで、あなたはどうしてここに?』
『ああ、そうでした。今日はご挨拶に来たんでした。春野椿さん、あなたを弊社の事務所に勧誘したく、ここへ参りました』
え?
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