6:ハイリターンかもしれない

『もしかして、意外と強い感じですかぁ?』


唐突にふうりんちゃんが猫なで声に変わった。

彼女はまだ、私に抱き着いたままだ。私は彼女を優しく放した。


『いや......。そんなに強いわけじゃ』


『でも、ムチを武器に使ってここまで戦える人、ふう見たことなーい。それって、すごいことじゃない?』


『そうかなぁ? そうかも......』


さっきまで凍り付いていた現場が、打ち解け始めた。それにしても、さっきのクモはなんだったんだ......。急に現れて......。まあ、いつもそうか。


『ねえ見て、つばっちゃん! これ』


そう言って彼女が指さす方を見ると、そこには魔石が転がっていた。しかも、原石じゃん。めちゃくちゃレアアイテムなんだけど? 


『え、魔原石? クソ高値で売れんじゃん!』


『あ、売るんだ......。私はコレクターだからさ。鑑定できるよ、やっていい?』


『え、うん。ありがとうございます』


『もう、友達なんだからタメでいいよ♡』


なんか、もう友達認定されてる......。どんだけちょろいんだ。

でも、こんなに可愛かったら悪くないかも......。


:なにがでるかな

:にしも、モンスターから魔石ドロップすることあるんだ

:なんか、徘徊者っていうらしいよ。廃ダンジョンのモンスターのこと

:へー

:へー

:ふうりんちゃん( ´艸`) ぼくちんから出て来た魔石も鑑定してほしいな😘【¥10,000】

:尿路結石やめろ

:尿路結石wwww


『きっしょ。こんなんが金スパ投げるんだ......』


『面白い人だよねー。いつもは無視してるんだけど、ありがとねー』


私達二人の毒舌が軽妙に噛み合う。この感じ、なんだか心地いいな。

彼女を見つめていると、彼女が驚いた顔でこちらを見た。


『お、なに? 出たの、鑑定』


『うんうん! めっちゃ出た! これ、回復の指輪になるやつ! しかも、上級の! 多分これ、蘇生できるやつじゃね?』


『蘇生? めっちゃ強いやつじゃん!』


『売らずに取っときなよ、つばっちゃん』


『え、私?』


「あたりまえじゃん。助けてくれたお礼。ほら、指輪にしておいたよ』


仕事が早い。私が持ってる銀色基調の物と違って白だ。たしかにレアアイテムの色だ。ていうか、既製品よりめちゃくちゃ可愛くされてる......! この子、器用すぎない?


『き、器用ね』


『えー、そうかな? あんま、そんな風に言われなかったからちょっとテレ』


彼女の照れる姿は、アイドルというにふさわしいくらいにカワイイ。さすが、事務所の看板アイドル。感心するなぁ。


『じゃあ、ありがたくもらうね』


そう言って私が指輪を付けようとすると、彼女は首を振って自分が着けたいと言わんばかりに奪って来た。


『私が指輪を付ける』


そう言って彼女は私の左手薬指に指輪をはめた。


『これ、意味わかってる?』


『さあ、わかんない。嫌ならつけ直していーよー』


この、嫌みたらしくも、小悪魔的な笑顔......。くっ、推せる......。

いやいや、私はドーナツ一筋だし!


『わーった、わかったから。もう少し探索するわよ』


ここが配信の見せ場だとしても困る。他にもなにか、起きてくれ!! まだ、1時間しか経ってないぞー!! 脳内で叫びながら、私は走って行く。どうにか、他の徘徊者を探したい! というか、ドーナツさんどこ!!? 昨日はあんなにあっさり見つけられたのに、見つからない!! たくさんいりくんだ分岐をあっちへ行き、こっちへ行く。でも、彼は見つからない......。やっぱり、偶然だったのだろうか。ぐるぐるとあたりを見回して、彷徨っていると突然ふうりんちゃんが目を見開いた。


『うわ、あぶない! つばっちゃん!!』


『え?』


後ろを振り向くと、そこには昨日出会ったスクリームがいた。天井を這っていて、気づかなかった。ていうか、ここのダンジョン天井這う系多すぎん? そんなこと言ってる場合か!!


『気色悪っ!!』


私はまた鞭をスクリームにぶつけた。だが、化け物はただ叫ぶだけでダメージを与えてそうにない。むしろ、こっちが吹っ飛んでる!?


『つばっちゃん!? よーし、こんどは私が!!』


そう言って、彼女は腰にぶら下げていた銃を取り出して発砲していく。


『イーハー! ぶっころしてやるぜー!!』


『ふうりんちゃん!?』


知らない一面を見て拍子抜けしたのは私だけではない。銃弾を受けたスクリームが叫び声すらあげれずに逃げていった。虫もわいてこない......。どうやら、危機は免れたらしい。


『大丈夫だった? つばっちゃん』


『うん、ありがとう』


『お互い様じゃん? 私ら、最強の相棒マブになれるかもよ』


『ま、まぶ?』


『相棒ってこと。じゃあ、他の所も探索する?』


『う、うん』


腰を抜かしていた私を、ふうりんちゃんが手を差し伸ばした。

その様子は、しっかりとカメラに収められていた。ちょうど取れ高が取れたのかカメラ担当も朗らかになっていった。これはいけそうだな。アイテムもかなり良さそうだし、もしかしたらハイリターンなダンジョンかも!


『じゃあ、引き続き調査続行!!』


おーっと掛け声をあげ、拳を上げた私たちはさらに奥へ進むことにした。




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