5:廃ダンジョン再び!
「やっべ、遅れる!!」
昨日スマホの電源を切っていたせいで、逆にぐっすり寝てしまった。配信まで1時間を切っていた。少し遅れる旨を木下さんと、SNSで沸き立つみんなをなだめて私は急いで再び旧生駒トンネルへ向かった。
「す、すいません! 遅れました~!!」
「お、来たっすね! お疲れっす! 春野さん!」
「はあはあ、すいません。寝坊しちゃって......」
「しっかりしてくださいよ、今日のは個人の配信とはわけが違うんすから」
「え、ええ......。運営からの直々のオフィシャル配信ですもんね。 それに、確か大手プロダクションの方もゲストで来るとか?」
「そのゲストの方、もうスタンバイしてますよ......」
そう言うと、木下さんは後ろで控えていた車に視線を映した。
木下さんが困った表情をしながら、私をその車の方へ誘導した。すると、そこにはグラサン姿の少女がリクライニングで座っていた。も、もしかして......。ダンジョンアイドルのふうりんちゃん!? うっそまじ?
「まじで、ふうりんちゃん? あのダンジョンでライブしたフレッシュのメンバー?」
「そうっす。ダンジョン配信者事務所『ダンプロ』のアイドルグループ【flesh♪】のふうりんさん。ふうりんさん、こちら今回の案内役のつばっちゃんです」
「木下さん。それで、この芋臭いのと一緒なの?」
「いも......」
その言葉に、身体が固まった。配信の表情や声、態度を越えた横柄さに硬直してしまった。一瞬で嫌いになりそうだったけど、私はあくまで個人だ。この人を立てておかないと......。
「そう言わないでよ、ふうさん。今日は、人気になりつつある廃ダンジョン配信、そこで今時の人となってるこの人とコラボ! それで、ふうりんの名前をもう一度ブレイクさせるんです!!」
「......。わかってるわよ。頼んだわよ、えと」
「つばっちゃんです。配信上では、そう呼んでいただければ......」
「そう......。まあ、適当に呼ぶから。後はあんたが前を歩く! それ鉄則だから!」
「は、はい......」
なん、なのよ! この女......。こいつのビビり散らかしてぐちゃぐちゃになった顔、全国ネットに晒してやるんだから!!
「じゃあ、みなさん! 本番始めますんで、準備お願いしまーす!」
木下さんの一言で、スタッフの一人がドローンを動かしながらふうりんちゃんを撮影する。チームでの撮影って、こんな風なんだ......。この人たちを、案内するっていう話だけど、そこまで詳しいわけでもないのに大丈夫かな......。いや、ここでひるんでいたら個人からの脱却はない! やるしかない、まあなんとかなるとは思うけど。
「ドローンちゃん、私視点のもお願いね」
そう言って、ドローンを機動させて撮影準備に入る。まずはイントロデュースからだ。はじめはたしかふうりんちゃんからのあいさつだ。すると、ふうりんちゃんはこちらに近づいてきた。ち、ちっか!? めっちゃいいにおいする。
「サービスだから、勘違いしないでよ」
小声で言う彼女の視線は、すぐにカメラに映り、いつものキラキラした顔に戻った。私が知るふうりんちゃんの顔だ!
『こんにちりんりん♪ みんなの涼み、【flesh♪】の涼しさ担当ふうりんです! 今日は、話題の廃ダンジョンに来ています!』
:うおおおお!!
:ふうてゃが廃ダンジョンに!!
:廃ダンジョン楽しみ!【¥5,000】
さっきまでの横柄な態度など、感じさせない清楚ぶり。少し関心する。
続いて、私の紹介へ入るそうだ。
『そして、その話題の渦中の人を呼んでいます! それでは自己紹介、おねがいします!』
『は、はい! 配信をご覧の皆さん、こんにちは! 探索つばっちゃんと申します! 気軽につばっちゃんと呼んでいただけると嬉しいです』
:しくよろー
:はいはいー
:あー、ドーナツ見つけた人ねー
反応うっす!
雲泥の差すぎんだろ! ま、いいわ。ここで配信に来てる人全員振り向かせるくらいのつもりで頑張らなきゃ!!
『じゃあ、つばっちゃん。早速、廃ダンジョンの案内お願いします!』
『はーい。わかりました! じゃあ、早速探索にレッツゴー!』
そう言って、私達は廃ダンジョンの中へと入っていった。
中はこの前と変わらず、ジメジメとしている。ただ、煌煌と光る照明群のおかげか明るく感じる。これが、金と企業の力か......。
『それで、中身はダンジョンと変わらないの?』
『いえ、リスポーンがないっていうのと、モンスターが独自の進化を遂げてるって言う点が違いますね。まだまだ私も始めたばかりなので、理解の及ばないところもあるのですが、それが逆に魅力......っていうんですかね?』
実質、ハイリスクノーリターンくらい何もない場所だ。しかも、意味不明なモンスターたちがどこかしこに潜んでいる。この配信で、なにか旨味のようなものを見つけないと、配信としての取れ高が......。奥に進んでいくうちに、音が静まり始める。まずい状況だ。この前は色々モンスターが出て来たのに、今日はえらく静かだ。
『それにしても、何もないね。前の配信の時はたくさんハプニングが起きたのに......。もしかしてさぁ、やらせ?』
ふうりんちゃんの言葉に、現場が凍り付く。彼女の配信もそうだ。時折見せる彼女の毒舌が、彼女の人気の秘密だったりする。そこは、素を出すんかい......。
『そ、そんなわけ......!!』
必死に反論しようとする姿が、余計に彼女らを不信がらせていく。
だが、私の視線にふうりんちゃんと、その奥で大きなクモのようなモンスターが彼女の生き血をすすろうと今か今かと口を開く姿が映った。
まずいっ! 私はふうりんちゃんの元に向かい、強引に押しのけて自分の持っていた鞭でそのクモを追っ払う。だが、クモは威嚇をやめずに襲い掛かる。
『え、なになに? これも仕込み?』
『んなわけねえだろ! 下がってろ、食われてえのか!』
『え......。はい......』
まずった......。でも、今は余裕がねえ!
ていうか、なんで私はムチなんていう変な武器チョイスしたのよ!
ああ、面白いかなと思ったからだった!! ああ、面白い!!
『ったく、ふざけてるわ! 昔の私!!』
雷の指輪を右手に付け、鞭を組み合わせる。これが、私の武装の中で一番効率が良くて最強の組み合わせだ。電気ムチとなった武器を振り回すと、その電撃は蜘蛛へ伝達されていく。よし、クモの首に巻き付けれた!!
『おらっ!! 死ねええ!』
クモは電撃に耐え切れず、ぱたんと足を広げた。
『や、やったの?』
『ん? うん、多分......。 あ、ごめんなさい! さっきは口が悪くなっちゃって......』
そう言うと、ふうりんちゃんは私に抱き着いた。 え? どういうこと?
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