第4話

ふたりの影が、ブランコの下でゆっくりと揺れている。


鉄の鎖が、かすかに軋んだ。


視線は交わさないまま、それでもふたりは、同じものを見つめていた。

揺れるブランコ。赤く塗られた鉄の枠。

その向こうに広がる、少し色あせた夕空。


「いつまでいるの? 」


拓海の声が、遠くに聞こえる踏切の音にやさしく重なる。


真央は、ほんの少し間を置いて、ぽつりと答えた。


「明後日の、このくらいの時間まで」


拓海は、小さく笑ってうなずく。

その笑い方は、昔と変わらないようでいて、どこか、少しだけ違っていた。


真央は、気づかれないようにそっと息をつく。


そのとき、ブランコの上の空に、小さな星がひとつ灯る。

空が、ゆっくりと夜に染まりはじめていた。


キャリーケースの中には、まだしまったままのTシャツ。

パンプスは、ぐるぐると押し込まれたまま。もう、出番はなさそうだった。


ふたりの影は、夜の中に溶けていく。

輪郭を失いながらも、並んでそこにある。


赤い鉄の枠の中だけに、小さな揺れがまだそっと残っていた。

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