第4話
ふたりの影が、ブランコの下でゆっくりと揺れている。
鉄の鎖が、かすかに軋んだ。
視線は交わさないまま、それでもふたりは、同じものを見つめていた。
揺れるブランコ。赤く塗られた鉄の枠。
その向こうに広がる、少し色あせた夕空。
「いつまでいるの? 」
拓海の声が、遠くに聞こえる踏切の音にやさしく重なる。
真央は、ほんの少し間を置いて、ぽつりと答えた。
「明後日の、このくらいの時間まで」
拓海は、小さく笑ってうなずく。
その笑い方は、昔と変わらないようでいて、どこか、少しだけ違っていた。
真央は、気づかれないようにそっと息をつく。
そのとき、ブランコの上の空に、小さな星がひとつ灯る。
空が、ゆっくりと夜に染まりはじめていた。
キャリーケースの中には、まだしまったままのTシャツ。
パンプスは、ぐるぐると押し込まれたまま。もう、出番はなさそうだった。
ふたりの影は、夜の中に溶けていく。
輪郭を失いながらも、並んでそこにある。
赤い鉄の枠の中だけに、小さな揺れがまだそっと残っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます