第2話

この町を出たのは、大学進学の時だった。

そのまま東京で就職。

なにもない町に戻る理由なんてなかった。


こうしてたまに帰省する。それで十分。

もう何年もそんな暮らしを続けている。


けれど──このにおい。


陽にあたって甘く匂い立つ草の葉。

道路の照り返しに混ざるアスファルトの熱。

夕立のあとの土のにおいが、ほんのかすかに風にまじる。


それらが、真央の奥深くで、何かゆっくりと反復する。


ふと顔を上げると、公園の一角が目に入った。

赤く塗られた鉄の枠に、ブランコがゆっくりと揺れていた。


誰もいないのに、まるで誰かが漕いだあとのように、ふわり、ふわりと。


「変わってないよね、あのブランコ」


声に振り向いた瞬間、時が少しだけ巻き戻るような気がした。

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