[ThreadStory] 絶対に気付いてはいけないオフィス怪談 ~消えた同期の謎~

風光

Thread 01|同期が突然消えた日

「じゃあ、また明日ね」

そう言って笑った彼女の顔が、頭から離れない。


佐伯美咲──俺の同期で、隣の席だった。

明るくて、気が利いて、誰とでもすぐ打ち解ける。

昨日も遅くまで残って「これ、部長が朝までに欲しいってさ。地獄〜」なんて、いつもの調子で笑っていた。

なのに、今日、美咲は職場から消えていた。


朝、席に着いてふと横を見ると、机がきれいに片づいていた。

派手なペン立ても、ポストイットも、飲みかけの缶コーヒーも、何もない。

まるで「最初からその席には誰も座っていなかった」ように。

俺は目を疑った。

異動でも? 休み? なんのアナウンスもなかったはずだ。


部長に尋ねると、きょとんとした顔で言った。

「佐伯……誰?」

冗談じゃない。昨日、残業を押し付けてたのは、あんただろ。

別の同僚に聞いても、皆「そんな人いたっけ?」と首をかしげるばかりだった。

まるで、彼女なんて最初から存在しなかったかのように。


でも俺は、確かに覚えている。

彼女がランチでカレーにするか悩んでいたこと、後輩の岸本にアイスを奢っていたこと、帰り際、傘を忘れて取りに戻ったことまで、細かく思い出せる。

岸本の記憶では、俺がアイスを奢ったことになっていた。

「先輩…疲れてます?」俺は力なく笑って返した。

岸本は心配そうに首を傾げたが、もうそれ以上は何も言わなかった。


ポケットを探ると、昨日彼女に渡されたUSBが出てきた。

「これ、見といてくれる?」

そう言って渡された黒いUSB。ラベルは無地で、何も書かれていない。

背中に、ひやりとしたものが這い上がった。

これは、ただの病欠や異動なんかじゃない。

何か“おかしなこと”が、もう始まっている。

その日から、俺の中に得体の知れない違和感が居座った。


ポツンと空いた隣の席が、まるで誰かを待っているように思えてならなかった。

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