日課
日付│5月25日(土曜日)。
今日は朝から雨が降り続けていた。
俺はあの日から毎日、仏壇に手を合わせ続けている。
毎日の日課だ。
仏壇には2枚の写真。愛する娘と嫁だ。
仏壇に供えてあるのはコンビニのスイーツ。
安っぽく感じるが、娘のバイト先のものだ。
いつもバイトが終わり家へ着くと、このスイーツを買って食べていた。
安月給で、大学の学費を出すので精一杯な、酷い家庭だった。
そんな中でも娘は、嫌な顔ひとつせず、バイトを掛け持ちし、その半分を家に入れてくれていた。
こっちが断っても、あちらがどう─ても入れると言って──た。
思い出すだけで、涙がこぼれ─ちてくる。
昨日は娘の交際相手が、仏壇に手を合わせに来てくれた。
彼は県外に就職したにも関わらず、3ヶ月に一度は必ず手を合わせにきてくれている。
最初は娘が彼と交際した時、見た目の不良感を理由に、交際を認めていなかった。
人は見た目に囚われないというのを、この歳にして学んでしまった。つくづく、自分は未熟な人間─と知る。
自分さえしっかりしていれば、あんなことは起きなかったのだろうか?あれから毎日自分を責めることしかできない。
心にぽっかりと穴が空いたままだ。
後を追うことも考えた。ただ、それには意味がないこともわかっていた。
あの男にさえ、人生を壊されなければ。
みんな幸せなままで。
必死で貯めていたお金も娘のために、使ってあげたかった。
就職をした時には車でもプレゼントする予定だった。
今でもそのお金は使えていない。
娘は20年前に亡くした。嫁はその5年後の事だった。
後を追い、風呂場で血を流していた。
その後15年間。俺は生きる活力を見失っていた。
でもな、最近生きる意味ってのを見つけたんだ。
それをする為にきっと今生きてきたんだと思う。
これが正解なのかも分からない。何が正解かなんてもう何でもいいんだ。そんなのは重要じゃない。
1年前から家の玄関へ、1週間おきに5本の花が届くようになった。
俺にはその意味がすぐわかったよ。誰が送っているのか。
決心がついた。俺ももういい歳になった。
今までのことについて、もうこれで終わりにしてやる。
俺もあいつと地獄に行ってやる。
以上、60歳男性の遺留品に記されていた日記。
一部は水分により紙がふやけ文字が潰れている。
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