第3話

 私は趣味で小説を書いている。ペンネーム『ひまわり』はもう一つの秘密の顔。


『選評: 高い文章力により最後まで読み進められました。しかしエピソードがどこかで見たことのあるようなものばかりで目新しさを感じず、惹き込まれるというレベルには達していないと感じました。もう一つ、この作品にしか無い個性と呼べる何かが欲しいところです』


 書いた小説を公開している「小説投稿サイト」上で開催されたコンテストで、落選したが惜しかった作品へ送られる選評。その内容を確認した後スマホのスリープボタンを押すと、画面は黒く暗転する。私の心を表しているかの様に。


(また駄目だった・・。夏樹君をモデルにしたヒーロー・・読者さんの反応は結構良かったのにな・・)


 無愛想で冷たい俺様男子がときおり見せる、ヒロインにしか理解できない優しい一面・・女子中高生向けの人気作にはそういう設定の話が多い。セオリーはきちんと抑えたつもりだったのにな。



 幼い頃から物語の世界は好きだ。現実とは違って、辛い事があっても最後はちゃんと上手くいくから。

 この歳で既に人間関係に疲れてしまった私は、以前より更に物語の世界にのめり込んだ。お話を考えているときは楽しいし、フォロワーさんもどんどん増えて、応援コメントとか貰えると本当に嬉しい気持ちになるし、とてもやり甲斐を感じられる。将来はなるべく人と接しなくていい仕事に就きたい私にとって、作家業で食べていければそれ以上の事は無い。


 だけど・・人気ランキングでは度々上位に食い込めるようになってきた今も、コンテストでの入賞実績は無い。書籍化実績のある作家でもそれだけで食べていける人はほとんどいないって、ウェブで書いてる人がいた。そりゃそうだよね、これだけ多くの人が投稿してるんだもん。間口が広がった分競争率は上がるだろうし、その中で選ばれ続けるって、余程才能のある人じゃないと無理なんだろうなぁ。



『エピソードがどこかで見たことのあるようなものばかりで目新しさを感じず』




 ────中学のとき、少し気になっている男の子がいた。私と同じ本好きで、大人しい子で・・一緒にいると落ち着けた。だけどある日、二人で帰っているところをクラスの女の子達に見られてしまい・・



"あの二人って付き合ってんの?"

"マ? アタシ彼氏居ないのにぃ? キモオタにも先越されてるアタシ、ヤバない?"




 ・・恥ずかしかった。オタクにはリアルで恋愛することすら許されないことなんだって。笑いのネタにされることなんだって。それから彼とは気まずくて話さなくなってしまった。

 どこかで見たことあるエピソードなのは当たり前。私の恋愛知識は小説や漫画、二次元限定だから。現実世界では怖くて恋愛すらできない陰キャ代表。本物の恋を知らないのに個性なんてだせる訳がない。


 本の世界は私を裏切らないと思っていた。でも私にはこれだけって決めた世界すら────結局は汐見君達みたいな、リアルが充実してる人達のものなのだろうか・・。


 

 今日見た汐見君の顔が脳裏を過った。

 あの時のあの顔・・あれはきっと、傷ついた顔だ。あんなにクラスの空気悪くして・・周りもドン引いてた。



(どうして嫌な事って、こう重なるのかな・・)




 人を傷つけたくないって何より思っていたのに。なんで私はこんなに上手くできないんだろ。


 何も上手くいかない。皆が普通に出来ていることが、私には難しい。こういうのが社会不適合者っていうのかな。リアルでも二次元でも、私の居場所は何処にも無い────・・




 自室で一人膝を抱える。だけどそのとき、スマホがピコンと鳴ったのに気付いてそれを手に取る。するとそこには、フォロワーさんからの応援コメントがポップアップされていた。



"ナミ:ひまわりさん、今日も楽しく読ませていただきました! 次の更新も楽しみにしてますっ!"



 ・・自然と顔が綻んだ。私はスマホの画面に指を走らせる。




『ナミさん、いつもコメントありがとうございます。いつも心が救われてます。・・』



 少し重い返信を、返した。



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