5:モブは渋いよ


「とまぁ延々と首狩りしてたんだけど……。」


「……ぁ、ぁ。」


「壊れてうわごとしか言わなくなっちゃった。」



まぁ延々と殺されてたわけだから仕方ないね、うん。


彼をバグで嵌めてから2週間ほど。毎日隠れながらえっさほいさとこの放棄された墓地に赴き、お昼寝時間を除いた全てを首狩り時間にして頑張りました。するとまぁその成果が出て来たようで、彼の正気と反比例してどんどんとこの体の性能が上がってきている様に感じます。経験値入手によるレベルアップの効果ですね。


最初は振り下ろすのにも一苦労だった『木こりの斧』も幼女ながら楽々振れてしまいますし、慣れもあるでしょうが1発で首を落せるようになってきました。最初は全然上手くいかなくて、殺し切るまでに5、6回ほど振り下ろしていたのを考えると凄い成果でしょう。



(うんうん、成長した私偉い。)



そんなことを考えながら、慣れた手つきでその首に向かって斧を振り落とします。


すると鈍い感覚と共にころりと落ちる彼の首。包まれた麻袋の口から断面図が見え、血を勢いよく吹き出しながらころんって感じです。……あ、この袋ですか? 実は途中ちょっとその頭と眼が合っちゃって気味が悪かったんですよ。私も殺したくてやってるわけじゃないので、袋かぶせて色々見えないようにしたって感じですね。


とまぁそんなことを考えながらちょっと放置し瞬きすれば、いつの間にか元に戻っている彼の首。地面にまき散らされた血はそのままですが、麻袋はちゃんと装着済みなのは便利ですよねぇ。


さてさて、そろそろ『村人』のレベルがカンスト……。



「……あ、きた。」



復活した彼の首にもう一度斧を叩き込んでみれば、頭の中に響く子気味良い電子音。


この世に生まれてから9回目、職業『村人』の上限である、レベル10に達した音です。



「ん~! ようやくですね! ささ、確認して見ましょ。」




[STATUS]

JOB : 村人

Level : 10 (+9)

EXP : 60 / 60 (MAX)


HP : 5 / 5 (+3)

MP : 4 / 4 (+1)


ATK : 1 (+1)

DEF : 0 (+0)

M.ATK : 2 (+1)

M.DEF : 3 (+3)

SPD : 3 (+2)

LUK : 0 (+0)




「うん! 弱い! あはー! ……もう主人公の代わりするの辞めようかな。」



私の前に出現する、雑魚としか言いようがない数字達。うんうん、そうですよね。最初0か1だった奴が1とか2になれば2倍以上の出力、ってことになりますよね。そりゃ強くなったと錯覚するわけです。んで数字診て現実に直面するって奴。


う~ん、ちゅらい。


10年後にはなりますが、物語が始まり主人公が村を出る時のステータス。その最低値が5であったことを考えると非常に雑魚。しかも防御力は据え置きで0なので殴られたら即死なのは変わりません。涙すら出てきますね。


い、いやまぁ理解はできるんですよ? こうなった理由については、うん。


まずこの世界の元になっている『天アバ』のステータスは、ほぼランダムで変化します。


レベルアップ時に査定が行われ、そのキャラと職業に見合った補正が掛かり、上がるか上がらないかという感じになっています。早い話、運で決まってたんですよね。HPの一項目だけ上がってしょんぼり、そう思えば次は一気に五項目も上がってウハウハ、そんなゲームでした。



(でも主人公周りになるとそれなりにしっかりとした補正貰ってましたし、一気に2,3項目上がるのが普通だったんですが……。うん、これモブに補正とかないんでしょうね。)



御覧くださいこの何とも言えないステータス。


そりゃ最初の0か1しかなかったクソ雑魚に比べれば格段にマシですが、超雑魚です。すぐ死にます。防御力一切上がらなかったので慈悲なく死にます。なんです? 私だけスペランカーとかオワタ式してるんですか!? 人生で! 辞めたくなりますよこんなクソゲー!


どれだけ首を落してレベルを上げても、上がるのは一項目のみ。時たま二つ上がることもありましたが……。もうこの弱さでは何の意味もありません。あと防御力もそうですが、何で幸運値まで上がってないんですか!? いやまぁ主人公が原作始まる前に死ぬっていう特大の不運抱えてますけども!!!



「こんなんじゃ村から出ることすらできないじゃないですか……。」



いやまぁ確かに、ここからさらに時間をかけてレベリングしまくれば何とかなるんですよ。でもね?


レベルの横にMAXと書かれている通り、『村人』という職業のレベル上限は10。


無論転職を繰り返しレベルを1に戻すことでまた何度もレベリング自体することは出来るのですが、そもそも『転職』が出来るのは王都などの巨大な教会があるところだけ。パパが村長してるこの村では欠片もすることが出来ません。


つまり強くなるには早めに村を出て職を変えに行く必要があるのですが……、このステータスじゃ絶対途中で死にます。最低でも初期主人公と同等じゃなければ死ぬんです。はい。



(い、一応まだ原作開始まで村で待てば何とかなる可能性もありますが……。それじゃちょっと間に合わない気がするんですよね。)



まだ想定の域を出ませんが、おそらく時間経過でこの数値の向上が望めると思います。肉体の成長に合わせてステータスも伸びる、ってやつですね。死ぬほど嫌ですけどお昼寝とお布団ぬくぬくの時間を削ってトレーニングしたりすれば、原作開始の15になる頃にはちょっと増えてるはずです。


ですが……。


それで真に世界が救えるか、いえ私のお昼寝が守れるかって話なんですよね。


この伸び具合を見ていると、私のようなモブでは主人公と同等の強さになるまで倍以上の時間がかかるでしょう。トレーニングには限界がありますし、この世界がRPGであれば最後ものをいうのはレベルとステータスです。無論効率化や狩場の選定をすればもう少し早くはなるでしょうが、彼が一度のレベルアップで2,3。上手くいけば5項目も上がっている主人公に対し、私が1項目だけ。


つまり彼と同じだけ強く成ろうとすれば、原作が始まった瞬間から彼以上に頑張る必要が出てきてしまうのです。



「ゲームではフラグ管理でしたけど、こっちじゃ現実。全部同時進行で起きる可能性だってあります。私が強くなる時間と、問題に先回りして対処する。原作キャラに接触してあわよくば役目のバトンタッチを図る。それを考えての10年前からの行動だったんですが……。」



これだと、ちょっと間に合わない気がしますよねぇ。


超苦手というか、欠片もしたくありませんが、早め早めの行動を心掛けた方がよさそうです。ということで次の目標は転職。確かここから一番近い大教会は王都だったので、そっちに移動する必要があるのですが。



(むりそう。)



ステータスを考えれば、一人で村を飛び出して王都に行けば途中で死ぬのは確実。かといってだれか誘って行こうにもおそらく不可能でしょう。何せパパの村、私が住む村は結構懐具合が厳しい村。ウチは地主なので余裕があるしゆっくりしてても問題ないですが、それ以外の人たちは毎日頑張って稼がないと生き残ることが出来ません。


しかも主人公が死んだ事故で粉挽き小屋が吹き飛んだことで、負担が増大しています。理由もなく王都に行きたいと言って誘ってもついて来てくれる人はいないでしょう。大人子供含めて、です。



「というか、そもそも“村の外に出る”ってのがかなり珍しいことらしいですしねぇ……。」



一生を村の中で過ごすのってそう珍しくない話ですからねぇ。あとパパもママも普通の人ですので、私が一人で出歩くの良く思ってない人ですし。


ここ最近のレベリング外出も、村からそう離れず両親に『お外でお昼寝して来る』と言ってから出発しているので、何とか成立しているものです。本来子供が出てはならない村の防壁の外に出ちゃってますから、バレれば滅茶苦茶怒られるでしょう。そんな幼子である私が王都に行きたいと言えば……、却下されること間違いなし、ってやつです。



(アレですね、前世の感覚で言うと幼稚園児が『徒歩で東京までいくの!』って駄々こねてる感じ。)



車どころか馬車すらないですからねぇ、この村。そりゃ止められるってやつです。



「ん~、ちょっとコレこのまま考えてもいいアイデア出そうにないですね。ちょっと眠くなってきましたし……。帰ってお家でゴロゴロしながら考えましょうかねぇ。」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る