第16話 家族との絆と温かい心
お盆の間、ユイの家には親戚たちがひっきりなしにやってきました。従兄や従姉、その子どもたち、そして普段は会わない遠い親戚まで。都会では、年賀状のやり取りでしか知らなかった顔が、次々と玄関をくぐっていきます。
「ユイちゃん、おかえり!大きゅうなったなぁ!」「元気そうやんか、よかったわ!」
誰もが、ユイを温かく迎え入れてくれました。その言葉の一つ一つが、ユイの心をじんわりと温めます。都会では、人と関わるたびに「どう見られているか」を気にしていました。しかし、ここでは、ユイの肩書きや年収、結婚の有無など、誰も気にしていませんでした。ただ、「ユイ」という存在そのものを、心から喜んでくれているのがわかります。
食卓には、ミサキの作ったご馳走が並びました。畑で採れたばかりの夏野菜の煮物、鮎の甘露煮、そして親戚たちが持ち寄った海の幸や山の幸。皆で囲む食卓は、いつも笑い声と賑やかな会話に満ちていました。ユイは、気がつけば、心から笑っていました。
ある晩、従姉がユイに言いました。「あんた、帰ってきてほんまに良かったな。都会でしんどそうやったって、おばちゃん心配しとったんやで」その言葉に、ユイは驚きました。ミサキは、都会でのユイの苦しみを、言葉にしなくても感じ取っていたのです。
そして、お盆の終わり。ご先祖様の霊を送るための送り火が焚かれました。ユイは、ナスで作った牛に、ご先祖様がゆっくりと乗って帰っていく姿を思い浮かべました。
「また、いつでも帰ってこいよ」親戚たちは口々にそう言って、家を後にしました。
ユイは、都会で感じていた孤独が、この町では存在しないことを知りました。いつでも帰る場所があり、心から心配してくれる人がいる。その事実が、ユイの心を深く満たしました。
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