第12話 仮面を剥ぐ時
深夜、山本は再び書斎にこもり、証拠を整理していた。
翔太の日記、スマートフォンの通話履歴、不良グループの証言、そしてイヤリングに刻まれた謎の印。
「この事件は、偶然ではない」
山本は、すべての線がある一点に収束していることに気づいていた。
その名前は——村上翔一。
生徒会長。教師たちが「完璧」と口を揃える少年。
だが、裏ではネット掲示板の管理者を装い、翔太に匿名で誹謗中傷を送り続けていたことが、スマートフォンのIP情報から明らかになった。
さらに、翔太のスマートフォンに残された通話履歴のうち、一件だけ削除された番号が復元された。
その番号は、学校の職員室に直通する内線番号だった。
「村上と教師が、繋がっている……?」
山本の脳裏に、あの日の担任・高橋の目が浮かんだ。
——あれは、迷っている目ではなかった。
——見て見ぬふりを決めた者の目だった。
翌朝、山本は学校を再訪し、高橋に対して最後の問いをぶつけた。
「あなたは、翔太が追い詰められていたことを知っていた。にもかかわらず、なぜ止めなかった?」
高橋は顔を歪めた。
「……村上の親は地元の教育委員会の理事だ。彼に手を出せば、教師人生が終わる。私は……教師として、弱かった」
「弱さで人は死にます」
山本の声には、怒りではなく、静かな憤りがにじんでいた。
その日、山本は教育委員会に匿名ですべての証拠を提出し、新聞社の記者にコンタクトを取った。
数日後、「中学生死亡事件に第三者関与の疑い」という大見出しが、市内を駆け巡ることになる。
村上翔一は学校を去り、高橋は自ら退職届を提出。
翔太の母は、涙ながらに山本に頭を下げた。
「あなたがいてくれて、翔太の声は、ようやく届きました」
そして——
山本耀は、静かにペンを取った。
この事件を、小説として書くためではない。
真実を残すために。沈黙の中で消えていった少年の声を、永遠に語り継ぐために。
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