ノートの表紙には、田中翔太の名前が鉛筆で書かれていた。

山本耀はそっとページをめくる。そこには、幼い文字で綴られた日々の記録があった。

「今日も佐藤に怒鳴られた。理由はわからない。笑いながら暴力をふるう彼の顔が頭から離れない。」

「休み時間も一人で隅に座る。誰も近づかない。自分が悪いのだろうか？」

「家に帰っても誰も話を聞いてくれない。母さんは仕事で忙しい。僕はどこにも居場所がない。」

山本は目を細めて読み進めた。ページを追うごとに、翔太の言葉は徐々に重く、苦しくなっていった。

だが、最も気になったのは、頻繁に登場する「佐藤悠也」という名前だった。

その名前の横には、時折、怒りや恐怖を示すマークがいくつも描かれていた。

「佐藤悠也……一体どんな人物なのだろうか」

山本は心の中でつぶやき、すぐに調査の第一歩を踏み出すことを決めた。

翌日、山本は佐藤悠也が所属するクラスへ向かった。

廊下を歩くと、数人の生徒がこちらをちらりと見ては目を逸らす。聞き込みは難航しそうだった。

教室のドアをノックし、中に入ると、そこには整った制服を着た男子生徒が座っていた。まさに佐藤悠也だった。

「君が佐藤悠也か。田中翔太のことについて話を聞きたい」

山本は穏やかに話しかけた。

佐藤は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷静な声で答えた。

「翔太？　あいつは自分で道を間違えたんだ。俺には関係ない。」

その言葉に山本は眉をひそめた。何かを隠しているようだった。

山本は現場での聞き込みを続ける中、翔太の周囲の沈黙が一層濃くなっていることを感じていた。

「なぜ誰も翔太の声を聞こうとしないのか」

それは、彼の命を奪った「真実」を覆い隠す壁のように見えた。

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