少女たちは会議室で踊る

紅井 殻

プロローグ 小さな箱の中で

 ――多数のビル群と大規模施設で構成された国内最大級の学園である慶雲女学園けいうんじょがくえんも、広大な宇宙に比べれば点に過ぎない。


 そう思わされてしまうような、小さな星々まで見えるほど空気が澄んだ夜。

学園のとある一室で、大きく重厚な椅子とは不釣り合いに小さな少女が、器用に胡座をかいて椅子に座っていた。

 少女は、星を見ていた。

 その表情に喜怒哀楽はなく、ただ真っ直ぐ、暗室の窓から星々を眺めていた。

 まるで上下左右が分からない宇宙空間に放り込まれたかのような静寂。――宇宙から宇宙を眺めるという矛盾。

そんな中突如響いた背後のドアをノックする音で、少女は宇宙から地上へ引き戻された。

「どーぞ」

 「ガチャリ」とドアを開く音がしたと同時に室内の照明のスイッチが押され、さながら深海のようであった室内に灯りが灯った。

少女がゆっくり振り返ると、同じく高校の女性が立っていた。

「星を見てたの?」

「うん」

「珍しく感傷的だね。いつも寝てばっかなのに」

 驚いた様子で女性に嫌味を言われて少女はしかめ面になったが、顔をまた窓の方に向けた。

「広大な星々を見てると、ふと思う。なんで私たちは他人を蹴落としたり裏切ったりしているんだろう、失敗したところでたかだか学校が消えるだけなのに、って」

 女性は少女の隣にまで近寄り、頬を緩ませた。

「それ、地域貢献部部長としてはあるまじき発言だね」

「別にいいよ。こんな肩書き、個人の自由に比べたら価値なんて無いに等しい」

 少女はヘラヘラ笑いながら、問題発言をさらに上塗りした。

「相変わらずだね。で、そんなやる気のない部長に物資調達で相談なんだけど」

「へいへい」


 文泉ぶんせん三十二年四月某日のことであった。

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