【第11章 第二十五話「それだけで……」】
祭りの次の日、
霧丸は、朝の光で目を覚ました。
いつものように顔を洗い、外に出てみる。
── 身体もほぼ戻ってきたな
久しぶりに木刀を握ろうと、
家の中に戻る。
ふと、視線に入った
棚に置いた″ひょっとこ″のお面が
こちらを見ている気がした。
あまり、気にする事もなく、
木刀を手に取り、
再び、外へ出て、木刀を振った。
──よし、何も問題はないな
しばらく、振り続けた。
だが…… どこか気持ちは上の空だった。
「あぁ!もう!
気が散ってしょうがねぇじゃねぇか!」
木刀を投げ捨て、
屋敷に向かって走り出した。
「姫様は、屋敷におられるか?」
屋敷に着くと、門番に尋ねた。
「お出かけになっております」
「あ…そうか……いつ、お戻りになる?」
「私では……分かりかねまする」
霧丸は、門番の淡々とした返答に、
不機嫌になったが、
一旦出直そうと、家に戻っていった。
── 翌日
霧丸は、朝早くから目覚めていた。
昨晩は中々寝つけなく、
ほとんど寝ていないと言っても
いいくらいだった。
日が完全に昇りきる前に、
屋敷へと向かった。
昨日と同じ門番だった。
「姫様は、今日は、屋敷におられるか?」
「お出かけになっております」
「いつ、お戻りになる?」
「私では……分かりかねまする」
昨日と同様な、淡々とした返事に、
霧丸は、激怒し、門番の胸倉を掴んだ。
「ふざけんなっ!
昨日も同じ事言ってたじゃねぇか!
いつ帰ってくんだよ!」
「私は何も……」
門番は、顔を背け、後ろめたさそうな困った顔をしていた。
「何か……知ってるな?」
霧丸が問い詰めようと、
右手の拳を振り上げた時、
「霧丸殿! おやめください!」
志乃が現れた。
「……殿……?」
今まで、志乃にそんな風に呼ばれたことはない。いつも呼び捨てだからだ。
霧丸は、イヤな予感しかしなかった。
「姫様は……御伽山に向かいました」
志乃は真剣な表情で、静かにそう口にした。
「御伽山……だと!?」
「どうしてっ!
何故、姫様が、
御伽山に行く必要があるのだっ!?」
霧丸は、訳が分からなかった。
「…… 姫様よりお手紙を預かっております」
志乃は手紙を差し出した。
「手紙……?」
──益々、意味がわからない
急いで、手紙を広げ、読み始めた。
────────────
拝啓 霧丸 様
初めてあなたに手紙を書きます
きっと怒ってらっしゃるでしょうね
直接伝えたら気持ちが揺れそうで
どうしても口にする事が出来ませんでした
お許し下さい
そして
聞いたらあなたは絶対に敵陣に乗り込んでしまうでしょう
それだけは絶対にさせたくありませんでした
こんな小娘に何ができると
お笑いになるかもしれません
でも
あなたはこうおっしゃってましたね
守る為に強くなると
その言葉を聞いて
わたくしは 姫としてこの国の当主として
愛するこの国の民を守りたいと思いました
いえ 守らねばならぬと
あなたに負われて見た花火
とても綺麗でした
その思い出だけは
誰にも汚せない
私だけの宝物です
それだけで
ただ それだけで
心残りはありません
凛は使命を果たしに行って参ります
どうか お元気で
さようなら
凛
────────────
霧丸は、手紙を読み終わると、
途中、滲んで霞んだ文字にそっと触れ、
静かに志乃を見た。
「姫様は……ご立派でした」
志乃は、唇を噛み締め、必死に堪えていた。
霧丸は、無表情のまま
丁寧に手紙を畳み、懐に大事にしまった。
そして、門番の肩に手を置き
「……悪かったな」
と一言。
そして、
志乃に向き、丁寧に一礼し、
屋敷を後にした。
志乃は、去っていく霧丸の背中を見つめ、
深々と頭を下げる。
姫様を……
いえ、凛様を……
どうか……
どうか…………
お救いください
──溢れ落ちる涙が、地面を濡らしていた。
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