肉を焼く

白川津 中々

◾️

 腹が減った。


 日曜の朝、昨晩の酒が少し残っている状態。シメを食わずに寝てしまったものだから胃が軽い。頭も体も重いが欲望が勝ち、着替えてスーパーへ。とりあえず肉をカゴに入れる。100グラム152円の豚肉である。ついでに1000円程度のウィスキーも一瓶買って帰宅。早速フライパンに油を敷き着火。肉を乗せて焼き、ウィスキーをかけフランベ。瞬間、上がった火柱が引火し辺り一面火の海となった。しくじったなぁと思いながら炎に飲まれていく。これが死か。思いの外容易に受け入れられるものだ。

 ところで死ぬ前でも腹は減るし酒は煽りたいもので、湧き上がる欲望に従い肉と酒を胃に入れていく。体の内外から燃えていくが、それが快い。肌が焦げ、内臓が爛れていくのを感じながら肉を楽しむ。


 あぁ、俺は死ぬのだ。死ぬのにどうして貪る必要がある。この豚肉のように、誰かの血肉になるわけでもないのに、命がカロリーを求めている。名もなき豚よ、ロースになった命よ、申し訳ない。俺はお前を食っているが、焼死する。お前も俺も犬死にだ。しかし、しかし。


「美味い」


 灼熱の苦痛も煙の毒も、全て忘れるくらいに、肉は美味かった。悔いはない。ないが、強いてあげれば、もっと上等なウィスキーを買えばよかったと思う。もしラフロイグあたりを飲んでいれば、俺の焼肉も芳しく食欲をそそっただろう。誰に食われる事も、ないのだろうが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

肉を焼く 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ