第21話 それぞれの結末

品川が逮捕されたことで、副作用の被害だけでなく——

あの自馬総合病院の医療ミスと、その隠ぺい工作までもが明るみに出た。


事態を重く見た厚生労働省は調査に乗り出し、院長自らが隠ぺいに関与していた証拠も発覚。

病院は記者会見を開く間もなく、経営責任を問われ、事実上の閉院に追い込まれた。


それは、品川が望んでいた“結末”だったのかもしれない。

けれど、その形は——復讐ではなく、裁判と正義によるものだった。


そのことを、品川は取調室でこう語っていたらしい。


「……皮肉なものだな。

こんな形でしか……あいつらを裁けないなんて。」


苦笑して、そう呟いたという。


黒岩先生は、その言葉を聞いて淡々と答えた。


「法で裁かれた。それで充分だ。

——お前のやり方は、命を犠牲にする“裁き”だった。

それは裁きじゃない。…ただの加害者だ。」


僕はその会話を聞きながら、胸の奥がざわついた。

品川は“正しい裁き”を手に入れた。でも、同時にすべてを失った。

技術者としての誇りも、復讐を超えた先の未来も。


「……あの人は、最後まで間違えたままだったんだ。」


それが、僕の正直な想いだった。


「失っても良かった。」

品川は、取調室でそう呟いたという。

「もう……どうでもいいと思っていた。娘のため?いや、違うな……。途中からは、ただ自分の復讐のためだった。あいつらを裁きたかった。……それだけが目的だった。」


そうして彼は、わずかに笑ってこう言ったらしい。


「——目的は達成した。

だから……もう、死刑にでも何でもしてくれて構わないよ。」


その言葉を聞いて、僕は何も言えなくなった。

完全に“終わっている”人間の言葉だったからだ。


復讐だけを支えに歩き続け、

それを果たした瞬間、生きる理由すら失った。

その姿は、復讐を遂げた者ではなく——壊れた敗者だった。


黒岩先生は静かに言った。


「お前は、自分の命すら軽く扱うようになったんだな。

——お前が一番、命を軽く見ている。」


及川は黙っていた。

ただ、虚しい顔をしていたという。


僕は拳を握った。

品川は、自分を許していない。

自分自身を、もう裁いてほしいと願っている。


だからこそ、僕は思った。

「……罰は、終わりじゃない。

これからが、お前にとって本当の裁きだ。」


生きて償うこと。

それが、彼にとって最も重い罰だと——そう思った。



「まあ、生きろというなら生きるがな。」

品川は、取調室でゆっくりとそう答えたらしい。


その言葉には諦めと投げやりさが混ざっていたが、どこか吹っ切れたような響きもあった。


黒岩先生は静かに呟いた。

「生きることが償いの第一歩だ。そこから、何かを取り戻せるかもしれない。」


及川も静かに頷き、僕もまた、胸の奥に小さな希望を感じていた。


復讐に燃え尽きた男の、その先の物語はまだ終わっていない。

生きるという選択が、彼にとって本当の再生の始まりになることを願いながら——。



僕の日常は、以前のように静かに戻っていた。

今度こそ、自分自身の知識で試験をやり直すと決めた僕は、以前よりも長く、そして真剣に勉強に取り組み始めた。

命の尊さを胸に深く刻みながら。


能年社長は、ノーレッジ社を売却し、その資金をもとに新たな医療システムの開発に乗り出した。

また、手術の技術向上を支援するオペ練習用ロボットの開発にも着手したという。


その取り組みは、黒岩医師と及川博士も加わり、医療と技術の融合による未来を目指すものだった。


僕は彼らの歩みを見つめながら、希望を感じていた。

人の命を守ることの尊さと、真の努力の価値を噛みしめて。


まだ道は長いけれど、僕たちはもう、過ちから学び、未来へ歩き出しているのだ。



僕らの未来は、きっと明るい。

そう信じて——。


おわり。










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