ブレインレンタル

@ayumix

第1話 レンタル開始

20XX年。医学の進歩は、ついに“脳”を商品に変えた。株式会社ノーレッジが開発した新サービス——「ブレインレンタル」。必要な知識だけを脳に一時的にインストールできるという画期的な技術だった。


僕もその恩恵を受けた一人だ。試験の一週間前、専門知識パックをレンタルした。驚いたのは、その即効性だ。専門用語が自然と口をついて出てくる。理解も早い。試験は、手応え十分だった。合格は確実。そう思っていた。


だが、翌日。頭痛が始まった。


最初は軽い違和感だったが、次第に鋭い痛みに変わっていった。病院で診てもらったが、原因は不明。「様子を見ましょう」と、痛み止めだけが処方された。


納得がいかず、ネットで調べてみた。すると、同じ症状に苦しむ“利用者”がいることを知る。——どうやら僕だけの問題ではないらしい。


不安を抱えながら、ノーレッジのカスタマーセンターに電話をかけた。長い音声ガイダンスの末、ようやくオペレーターに繋がる。状況を説明すると、機械的な謝罪の声が返ってきた。


「ご迷惑をおかけいたしまして、大変申し訳ございません。ただいま、早急に開発者と原因究明に努めていますので、今しばらくお待ちくださいませ。」


——その“今しばらく”が、どれほど長いものになるのか。その時の僕は、まだ知る由もなかった。

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