十日一殺

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「善人はなかなかいない」

    ~フラナリー・オコナー~


恨み、妬み、嫉み、怒り、恐怖、義務、欲、女、男、快楽、猟奇、

今日も何かの理由で、いや理由がなくても

誰かが誰かを殺している。


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わたしには二人の姉がいる。


わたしはその妹だ。


二人の姉は双子で容姿がそっくりだ。


しかし、性格がまったく違う。


一人は勝手でわがまま。


もう一人はとても優しくて社交的だ。


二人とも同じ中学に通う2年生だ。


わたしは小学6年生で優しい方の姉にとても可愛がられている。


両親はもう一人の姉にはいつも手を焼いていた。


思春期になり、聞き分けのなさはさらに増していった。


ある連休の一日目にわたしたちは家族全員で、父が運転する車で郊外の遊園地に行くことにした。


それは、大分前から決まっていたことだった。


しかし、当日になって、わがままの方の姉が突然行かないと言い出した。


置いて行くわけにももちろんいかず、


父は何とか説き伏せて姉を同行させた。


道中も楽しい会話をする中で姉はぶすっとして口もきかない。


車も大分進んだ、山道を通っている時だった。


姉が、「今すぐ帰りたい!」と言い出したのだ。


いつかそんなことを言い出すのではないかなと


家族中が思っていた。


案の定、こんな山道で言い出した。


ちょうど山道の上りから下りに差し掛かる険しい崖の上だった。


父は優しく接して、何とかなだめすかしてみたが、


姉は聞かない。


とうとう父は怒りだした。


車を止めると後部座席のドアを開け、


姉を引っ張り出した。


そして路上に放り出し、車の運転席に乗り込むとそのまま発進させた。


わたしは振り向き姉を見た。


姉はしりもちをついたまま呆然としていた。


しばらく車を進めると父は車を止め、


深くため息をついた


「あいつにもほとほと困ったもんだ、ちょっとお灸を据えてみた、やっぱり戻ろう」


そう言って、父はUターンをして姉を置いてきた場所まで戻った。


姉は呆然として地面に座ったままだった。


あの優しい父がこんなことをしたのだから、よっぽど怒ったのだろうと、


ショックを受けているように見えた。


父は姉が見え出すと、車を止めた。


今度は、もう一人の優しい姉がわたしが説得して連れて来ると言った。


性格は違っていても双子だし、思春期の女の子の気持ちが分からなくもない。


そして、優しい姉は車を降りた。


ゆっくりと歩いて、わがままな姉のところへ行くとしゃがみこんで、彼女に向かって何か説得している様だった。


父はプライドも多少あるし、運転席でじっと待っていた。


ほどなくして姉は戻ってきた。


「ごめんなさい、ほんとにごめんなさい。わがままばっかり言って、なんだか恥ずかしくなったのね、素直になれなかったのね……、」


姉はそう言って、今までのことを謝った。


父も、母も、もうわかったから、もういいよ、と、


優しく、わがままな姉を許した。


そして、父は車を発進させた。


そして道中、また楽しく会話をしながら、目的地の遊園地に向かった。


しかし、その道中、わたしは怖くてしょうがなかった。


謝ったのは優しい方の姉で、もう一人の姉は乗っていないのだ。


わたしは、


見たのだ。


優しい方の姉が、わがままな姉を説得に行くと言って、車を降り、


わがままな姉を説得して二人で車に向かっている時、


優しい方の姉が、


わがままな方の姉を、


うしろから、


崖下に突き落としたのだ。


そして、何食わぬ顔をして、車に乗り込み、


両親に謝った。


わたしに向かって、にっこり笑い、


「今まで通り、わたしたちは仲良くしようね」とわたしの耳元でささやいた。


わたしはわがままな姉が大嫌いだ。


今わたしの側にいる優しい姉が大好きだ。


だからそれでいい。


それに両親は、


なんだか、姉が二人いたことを、


ずっと、ずっと、


今のいままで気づいていなかったようだ。


……………………………………………………

十日一殺、終。

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