第17話

 翌日の朝。

 あまり寝られず、俺は妹がラジオ体操へ行く前に起きていた。

 リビングの母さんは忙しそうに朝の支度に追われている。

「あら。早いじゃない。悪いけどもう出るわよ。ごはん作っておいたから食べ終わったらお皿洗っておいてね」

「うん」と返事をしてからテーブルの上に五千円札が置いてあることに気付いた。「これは?」

「お小遣い。凛ちゃんの面倒見てくれてるから。夏休みだし予定もあるんでしょ?」

 うん。殺人の予定が。とは言えない。

「まあ、一応……。今日も河野達と遊ぶかも」

「そうなの? じゃあ凛ちゃんはお留守番ね。でも高校二年だし、来年は受験だし、遊ぶなら今だけだもんね。最後の夏休みだと思って楽しみなさい。じゃあ、いってきまーす」

 母さんは微笑むとそのままリビングを出て仕事場へと向かった。

「……いってらっしゃい」

 そう呟きながら臨時収入を手に取る。小遣いはありがたいが、殺人をどう楽しめばいいのだろうか。快楽殺人者にでもなれと?

 俺が溜息をつくとその横を妹が通り過ぎた。もう着替えている。

「どこに行くんだ?」

「あたしもしゅっきんしてくるの」

「……ああ。ラジオ体操か」

「お兄ちゃんもいく? 大人の人もいるよ」

 高校生にもなってラジオ体操なんてやってられるか。

「いや、それは俺の予定にない」

「ダメなよていだねえ」

 まったくもってその通りだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る