第3話2025.11.16 ブックライターによる書店の定点観測vol.2

 夏に足を運んで以来、随分と書店から遠ざかっていたが、ようやく再訪が叶った。と、喜んだのも束の間のことで、書棚には大きな変更があった。創元社文庫とハヤカワ文庫の棚、それから岩波文庫とちくま学芸文庫の棚が著しく縮小されていたのだ。

今日日創元社文庫を扱っている書店は少ないので大切にしなくてはと、時折その棚から本を買ったりしていたのだが、案の定縮小となってしまった。

 早川書房も今年はヒデミスを行わなかったようで、見知らぬ芸能人が帯文を書いた文庫本が平積みになっているのを疎ましく思った。それもあまり捌けている様子もなかったし、つくづく本が売れない時代になったのだなと思う。

 我が敬愛すべき小島秀夫監督はというと、フランス文学のメリッサ・ダ・コスタ『空、果てしない青』下巻の帯文に名を連ねていた。調べてみるとamazonはすでに品切れで、定価は2000円を超えてしまうため、あいにくと手元不如意で迎えることが叶わなかった。

 結局椿實『人魚紀文』一冊のみを買ったが、版元の中公文庫はすぐに本が絶版になってしまうため、早めに確保した方がいいだろうと判断した結果のことだった。できれば澁澤龍彦『変身のロマン』も手に入れておきたかったが、こちらは追々ということになりそうだ。装画は林由紀子と一目で分かったが、あいにくと懐が寂しかった。

 また澁澤龍彦についてはさる故人から本を何冊も『澁澤龍彦集成』をはじめ、彼の著書を受け継いでいるので、そのうちに収められている可能性も捨てきれなかった。とはいえ文庫として読めるのは、紙の本しか読まない人間にとってはやはりありがたいことなので、そのうち手に入れたい。

 他にはNHKブックスから『学びのきほん つながりのことば学』なる本が出ていたが、ここのところ多く目につくようになったSNSのような体裁をした切れ切れの言葉が並ぶ本で、買う価値がないと判断して書棚に戻した。

 悪貨が良貨を駆逐するように、こうした短文が連なる本が本当に多くなった。編集者のパートナーも児童書を担当することが多く、昔と違って今はイラストや写真が主体となった本が多いと語っていた。大人向けの本でもそれは変わらない。

 私は子供の頃、毎日1冊の本を学校図書館で借りて読み、学校が終わる頃になったら返してまた借り、週末には地元の市立図書館に必ず通った。当時はこのように子供を軽んじるような本は少なく、図鑑は図鑑としての体裁を保ち、叢書としてずらっと書棚に並んでいたものだった。

 文章主体の本にところどころあしらわれた写真の図版はそう大きなものではなかったが、この窮屈な時勢とは違って、さまざまな国の文物を書物を通じて私は学ぶことができた。

 その遺産は、親が私に何かを説いたよりも、学校で歴史を学ぶよりもより深く、大きなものを私に与えてくれた。それは世界というひとつの視座だった。

 今、そのような本がどれほど出ているだろうか。そうした視点を持って書店を見回してみると、新たなものが見えてくる。

 また一周忌になる谷川俊太郎関連本もいくつか出ていた。個人的に気になったのは集英社の『谷川俊太郎てのひらの詩集 ベスト190」と、谷川俊太郎の遺作詩集『虚空へ』だったが、こちらもいずれは手にとって読みたい。

 谷川俊太郎の書籍については、前にも書いた通り、上述にもあるようにSNSのような短文が連なる体裁の本がいくつか出ていたので、その場では買い渋ってしまったのだった。

 今日の書店の様子を見るに、少し書店に足を運ぶのが気が重くなってしまいそうだが、書店は時代を映す鏡でもあるので、当世の世相を読むのにまた通って感じたことを綴っていきたい。


Thibaut Garcia/Aranjuez

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ブックライターによる書店の定点観測 雨伽詩音 @rain_sion

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