ザッツ・全滅エンド

大星雲進次郎

作戦開始!

「この建物が今回の標的ターゲットだ」

 今日この日のために集まった特殊部隊"チームウズラクエオ"のメンツを前に、隊長が言った。

 各々、作戦の内容の確認と覚悟は済ませている。

 それなのに隊長が標的の確認をしたのは、この作戦の特異さ故だろう。

 

 女性のみ完全会員制のスポーツジムだ。

 そこが町政転覆を企む結社の隠れ家となっていた。

 勿論、そんなことに全く関わっていない一般の会員も通っているのだが。


「無差別に殲滅?」

 電気屋のDMを装って届いた作戦指示書を読んだとき、思わず声にしてしまったものだ。

 しかし、作戦に対する疑問はない。

 必要ならば遂行するだけ。

 一連の作戦行動がこの局面に突入した、というだけだ。

 一般市民を巻き込むことにも忌避感はない。

 この世界で、彼女達も自分達も、何も変わらないのだ。

 運が悪かった。

 それだけ。


「先に潜入したクエオ6との連絡が途絶えた。よって、パターン31だ、今から突入する。全員配置につけ。クエオ2、クエオ3、聴いての通りだ。我々が炙り出した者達は……確実に仕留めろ」

『クエオ2、了解』

『……クエオ3、了解』


 市街地のどこにでもあるビル。

 トレーニングをしている様子を外に見せるためか、二階、三階の壁が一面のガラス張り。四階はレストランとなっており、最上階が浴場だ。

 通りに沿った入り口前には、隊長クエオ・ワン以下6名が客を装って徘徊しており、裏口にはベテランのクエオ4とクエオ11の2名が待機。


 作戦時刻が来た。

 クエオ1は自動ドアをくぐり、受付フロアへ潜入を果たす。

「いらっしゃいませ~」

 実に緩く迎えられたクエオ1はフロアを何気なく見回す。配置は情報通りだ。

 受付2人、階段から降りてくるのが1人、一基しかないエレベーターは上に向かった。

「作戦開始」

 同時に二階のガラス壁が派手な音を立てて割られる。その音に気を取られた受付の頭が撃ち抜かれる。

「二つ……」

 受付嬢が死の直前に鳴らした警報がビル内に響き渡る。

「ちっ」

 事前の調査で得た情報通り、警報とともに入り口のシャッターが閉まり、天井から小型対人レーザー銃が降りてくる。

 同時に室内の照明が落とされ、ゴーグルが暗視モードに切り替わる瞬間、

「きゃ!」

 レーザー銃の閃光と悲鳴。

 クエオ12のシグナルが消えるが、一瞬の閃光の中に見えた階段にいた標的の影とレーザー銃のシルエットに、実弾が撃ち込まれる。

『クエオ1、エレベーターの出口を破壊するよ』

クエオ10が小型ロケット弾を放ち、閃光と轟音とともにエレベーターは沈黙した。

「一階は制圧した。上へ行くぞ」

了解ラジャー


『作戦開始』

 無線から聞こえた合図と同時、

「悪いね、ガラス割りと一緒に始末させてもらうよ」

 クエオ2が隣のビルの屋上からガラス壁前でウォーキングマシーンで運動する女性を狙撃した。大きな音を出すために、通常より大質量の特殊弾を使用する。

 吹き飛ぶガラスと女性。

「よし……!」

 そこでクエオ2の意識は頭ごと飛ぶ。

 瞬時に射点を解析したドローンに撃ち抜かれたのだ。


「クエオ2、ロスト」

 クエオ3はクエオ2を狙撃したドローンの場所が特定できていなかった。

「……集中。簡単なこと、マズルフラッシュを感知する光学センサーがどこかに隠れている」

 それならば、火を噴かない武器に持ち替えるだけ。

 ケースから特殊装置を取り出そうと身をよじったクエオ3の背後には、ビル清掃員の女性が2人は拳銃を構えていた。


「クエオ2、クエオ3ロスト」

 スナイパーを失った。

 外からの援護は元より考えていないが、自分達が討ちもらせば情報が街に出てしまう。敵は個別に確実に潰さねばならなくなった突入部隊。入口は塞がれているので問題ではないとクエオ1は判断し、作戦を続行する。

 クエオ2の放った特殊弾は、着弾と同時に小さな鉄球をばら撒く。これにより二階の敵はほぼ無力化されているはずだ。

 しかしクエオ1は慎重に階段を上り、二階のフロアから頭が出ない高さから、手榴弾をフロアに投げ込む。

 ハンドサインで部下達を伏せさせる。

「クエオ10殲滅の確認を」

 専用のパワードスーツに身を包んだクエオ10が先行し、安全を確認する。

『敵、五体。いずれも生命反応なし』

「よし、行くぞ……」

『待って!』

「トラップか?」

『念のため。敵も僕達のことを調べて罠を張っている可能性がある……』

 パワードスーツに守られ、もっとも安全なクエオ10。だからこそ安全確認は慎重になる。

『ただの勘、だけどね』

『科学者だろ?』

 仲間の誰かがからかう。

『エジソンが言ったろ?天才とは……』

 突然フロアが閃光で満たされる。

 クエオ2を撃ったレーザー兵器が活きていたのだ。

 画像解析されたクエオ10のパワードスーツのコアが正確に撃ち抜かれる。

『クッソ……皆、伏せて!』

 パワードスーツの最後の切り札、内蔵爆薬が作動する。

 轟音と振動。

 コンクリートのチリがフロアを見渡せる程度に晴れると、二階の床と天井が跡形もなく崩れ落ちたのが分かった。

 三階に待機していただろう敵の残骸も瓦礫の中に幾つか見えた。

「クエオ4、二階のフロアが崩落した。そこからでは上に来れまい。地下に隠し部屋がないか調べてくれ。上は我々が制圧する。行くぞ」


 崩落に巻き込まれたクエオ4の装備から、使えそうな弾薬を抜き取るクエオ11。

「全く、何なの?極秘任務って分かってるのかしら?」

「う……」

「クエオ4、今楽にしてあげる」

 クエオ11は一切の躊躇い無く、クエオ4の頭部に2射。

「これで残りは……6か。手こずってるな。いや、クエオ6も絶望か」


 崩れたフロアに比べ階段はまだマシだったが、間違えて弱い箇所を踏めば、瓦礫の上に落ちて無事では済まないだろう。崩落が拡大する危険もあった。

『あっ……』

 そしてクエオ9が踏んだ場所は運悪く崩れてしまった。

『フライ!』

 しかしクエオ9は特殊能力で空中浮遊をしてみせ、華麗に瓦礫の上に着地する。

『済まない、そちらには戻れそうにないから、クエオ11と合流……』

 気を抜いた一瞬だった。

 くずれた三階の備品の陰から現れた敵が多砲身銃の連射をクエオ9に浴びせる。

 特殊能力行使の際に発せられる光が目立ちすぎたのだ。

 クエオ9は防御障壁を張る時間も与えられず、細切れになる。

 その敵兵もクエオ5によって射殺される。

「隠れろ!」

 三階から降り注ぐ、敵の残存部隊からの多砲身銃による斉射。

 柱に隠れながら応射するも、火力は圧倒的に敵の方が上。

 味方からも小さな悲鳴があがる。

5ファイブがやられました!』

「くっ」

『隊長、伏せて!』

 飛び交う銃弾の中、クエオ8が飛び出した。

 片腕を失いながらも、果敢に舞うその姿はただ美しかった。

 蜂の巣にされるもクエオ8が投げた手榴弾が敵の真ん中で爆発する。


 敵の銃撃も止み、しばしの休息。

「もうヤダ……死んじゃう……死にたくないよう……」

 仲間達の壮絶な最後の姿に、クエオ7の心が折れた。

「そうだな……。しかし下にはもう行けん。上に行くしかない」

 クエオ1はクエオ7を怒りも励ましもしない。

 戦場で心が折れたものに待つているのは死のみ。

 どうせなら、苦しまずに死なせてやりたい。

「サオリ、私は行くよ。生き残るために。おまえはどうする?」

 クエオ1の耳にはヘリコプターの音が聞こえていた。

 敵の幹部が逃げようとしているのだろう。

「私も、連れて行って……」


「大体、未知の地下室を敵地で探せって……それも一人でなんて無茶も良いとこだわ」

 口数がな多くなっている。

 クエオ11は自分の精神状態がパニックに近いことを分析する。

「見えている床もほとんどないし」

 撤退すべきだ。

 クエオ11の傭兵として生きてきた長年の勘がそう告げる。

 しかし、死んでいった隊の仲間達のためにも、何か成したい。そんなあり得ない考えがクエオ11を戦地に止まらせていた。

「駄目だよ……すぐに戻らなきゃ……」

 そして見つけてしまう。

 傭兵の勘がクサイと言うドアを。

 ドアの横に張り付き、拳銃の残弾を確認する。

「9発か。なんとか……」

 息を吐き、覚悟を決めると。

 勢いよくドアを開けて、照準もかまわずフルオートで撃ち尽くす。

 肩で息をする、クエオ11が最期に見たものは、ケーブルに繋がった手榴弾の安全ピンだった。

 

 三階から上の階段は無事だった。

 足が震えまともに歩けないサオリに添いながら、一段ずつ階段を上っていく。

「聞こえるかい?ヘリコプターの音だ。きっと私達を助けに来てくれたに違いない」

 それは絶対にない。

 分かってはいる。

 ただサオリに言い聞かせているだけ。でもほんの少しそう思っている自分もいることに、クエオ1は驚いた。

 屋上のドアから外の光が射し込む。

「あ……外!」

「待て!クエオ7!」

 何処にそんな力が残っていたのか、外の光が見えたとたん、クエオ7が駆け出した。生き残るための最後の希望、仲間の救援ヘリに向かって。


 クエオ1も走った。

 クエオ7を敵が射殺したその隙を狙って、ヘリコプターのパイロットを撃つ。

 1、特殊弾頭がキャノピーの防弾ガラスにヒビを入れる。

 2、同じ箇所にもう一射。ガラスが粉々になる。

 3、パイロットの眉間を撃ち抜く。


 同時に足元から爆破の振動が伝わってくる。

 傾いて屋上に落下するヘリコプター。

 崩れていくビル。

 巻き込まれ落ちていく、恐らく標的の敵幹部。

 その顔は恐怖に歪んでいる。


「なんて顔してんだ……最高の馬鹿面だ!」

 クエオ1は清々しく笑った。


 そして全ては崩落するビルに巻き込まれた。

 

 

 


《チームクエオ紹介》

クエオ1

主婦傭兵。チームクエオ隊長。数年前に任務地で拾った女児と暮らす。最近お母さんと呼んでもらえるようになった。ピーマンの隠蔽処理レベルはもはや達人。

 

クエオ2

スナイパー。現役の女子高生で入学式の日から気になっていたクラスの男子(鬼河原君)に告白されたばかり。初デートで初キッスを狙う。

 

クエオ3

スナイパー。幼少の頃内戦で両親を失い、組織に戦闘マシーンとして育てられる。特に生きる意味もなく戦い暮らす。

 

クエオ4

戦地の医療兵あがりの傭兵。クエオ3のことを、助けられなかった戦友と重ね気にしている。

 

クエオ5

古代から受け継がれる呪符使いの女子高生。この仕事を最後に引退し、幼なじみ(鬼河原君)と付き合いたいと考えている。


クエオ6

無職の姉さん。百の顔を持つ潜入スパイ。仕事の後に飲むビールはヱビ○と決めている。正体はクエオ4が助けられなかった戦友。

 

クエオ7

オシャレ傭兵。カフェでアルバイトを始めた大学生。バイト先の客(鬼河原君)が気になりだした。カップに私用のメッセージを書くなど、問題行動も……!?

 

クエオ8

お嬢様傭兵。親の敷いたレールのとおり生きていくことに疑問を持ち、荒事の世界へ。華麗な銃捌きにターゲットは見惚れて死ぬ。


クエオ9

自称異世界傭兵。現代科学では説明の付かない摩訶不思議な攻撃方法と言動は紛れもなく異世界人。春から中学に通いだした。


クエオ10

博士僕っ娘傭兵。隊で最も濃い属性を持つ。身体能力を補うため、パワードスーツを装着して闘う。戦闘中のポロリはお約束。飼っている文鳥に言葉を覚えさせようとするなど、天然の気もある。


クエオ11

傭兵一家で育ったエリート傭兵。本人はそのことを鼻にかけない気さくな性格。実は組織の監視役でいざという時は隊員でも躊躇無く処分する役目を持つ。ファザコン気味で、父親は某国大統領を暗殺したレジェンド傭兵。


クエオ12

隠密に長けた傭兵。幼いころから集団の数に数えられにくいという特技を持つ。スカイツリ○1億人目の入場者なのだが、カウントされなかったという悲しい思い出が。今回も実は……

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