異世界召喚されたので、能天気な冒険者をやっています〜復讐を果たすその時まで〜

大和由愛

復讐

 この日、私は異世界に召喚された。


 私の名前は佐藤侑、高校一年生。


 特に目標も夢もない、何の変哲もない、普通の生活を送っていた。


 そんなある日、突然目の前が光だし、あまりのまぶしさに目を閉じた。


 いつもとは違う、湿った空気、苔の青臭さが鼻をくすぐる。石造りの地面には魔法陣が描かれていた。


「勇者様、世界をお救いください」


 その干からびた声に、顔を上げる。すると、黒いローブを着たお爺さんが目に映る。


 その瞬間――


「うッ!」


 お爺さんの過去、感情すべてが私に流れ込んでくる。


 喉の奥から酸っぱい何かが上がってくるのを感じる。呼吸ってどうやってしてた?


 無意識に身体を強く握る、勝手に涙が出てきて止まらない。


 自分じゃない何かが入ってきているようで、怖い……


「勇者様、職業の確認をよろしいでしょうか?」


 何か言っているのが聞こえるが、正直それどころではなかった。


「職業とは、この目の前に出ているこれのことかな?」


 隣から聞こえた声に、初めて私と一緒に召喚された人がいることに気づく。


 ただ、隣を見ることは出来ずにいた。なんとか少し落ち着いたとはいえ、これ以上他の人の記憶と感情が入ってきたら、私の精神が崩壊してしまう。


「私の職業は……詐欺師のようだね」


 え?


 あまり勇者召喚では聞かない職業に驚き無意識に、隣に目が行く。


 金髪で何処かの国の王子様かと間違いそうなほどのイケメンで、どこかオーラもあった。


「う……」


 先ほどと同じように、頭の中に記憶が流れる、甘いマスクの下のヤバい素顔が、私の中の何かが絶対に関わるなと、言っている。


「詐欺師……そちらのうずくまっている方は?」


 詐欺師、その職業を聞いた瞬間ローブのお爺さんは眉をひそめた、だが、すぐに切り替え、こちらに笑みを浮かべる。


 自分の職業を確認する――


 《ユウ・サトウ》

 職業 剣士


「け、んし…」


 自分でも驚くような、かすれた、か細い声に、聞こえていたか不安になる。


 どうやらちゃんと聞こえたらしい、お爺さんは先程までの腰の低さは消え、軽蔑したような目線を私に、いや、私達に向けている。


「ハッふざけるな、召喚は失敗だ、連れて行け」


 何処から来たのかは、分からないが甲冑のようなものを着た人達が現れ、腕を掴まれる。


 人を見るたびに、流れ込んでくる記憶、感情に、抵抗する力はなく、簡単に連れて行かれる、一緒に召喚された彼も、抵抗するつもりは無いようで、すんなりと連れて行かれる。


 そして、乱暴に外へと投げ出される。


 どうやら、先程までいた場所はお城の地下だったようで、大きな門、首を真上まで上げなければ見えないほど大きな建物、アニメや漫画でしか見たことのないような、建物だ。


「まさか、投げ出されるとはね」


 一緒に召喚された男は、服についた汚れをはらいながら、立ち上がる。


「さて、僕は行くけど君も来るかい?」


 たぶん、ほとんどの女の子は、喜んでついて行ったであろう。


 だが、私は、誰もいないところに行きたかった。


 首を振って、人がいないところを目指し、路地裏へと歩く、たぶんゾンビの様な歩き方になっている。


 しばらく歩くと、やせ細った人達が倒れていたり、歩いているのが見える。


 忘れていたが、ここは異世界だ、日本ではない。表の賑わっている街並みとは反対に、こういう、貧困な人たちも同じ国に沢山いる。


 来るところを間違えた、そう思った時には遅かった。


 次の瞬間――


「うああああああああああああああああ」

 

  痛い、苦しい、胃の中のものが全て出てくる、いままで、どうやって呼吸してた?呼吸の仕方さえも分からなくなる。


 頭を何度も壁や地面に叩きつける。もう、顔は嘔吐物と、涙でぐちゃぐちゃになっている。


 どれくらいたっただろうか、わからない、でも、人間というのは不思議なものだ、あれほど苦しくて痛かったのに、今は何も感じない……


 雨が顔に当たる、まるで、涙のように頬を流れていく……


 いつまでもここにいるわけにはいかない、異世界に来たらこういう時はどこに行くべきか、記憶を辿る……あれ?どの記憶だっけ?


 いろんな記憶があって、どれだかわからない、私が私のままでいられてるのかもわからない。


 アニメ、漫画、異世界、ファンタジー、ああ、この記憶だ……


 沢山ある記憶を辿る。


 こういう時に行くのは……


 冒険者ギルドだ……


 ゆっくりと立ち上がり、安全かも、何処にあるかも分からない、ギルドを目指して歩く。


 そのとき、急に、下半身に衝撃がくる。


 前方で尻もちをついた女の子を見て、この子とぶつかったんだと気づく。


「いたい……うぅ」


 女の子をみた瞬間、今までとは違う、暖かくて優しい記憶と感情に、声が漏れる。


「暖かい……」


 女の子は目を擦り涙を拭いているようだった。


「お姉ちゃんも、いたいの?」

「え?」


 女の子は、私を見上げて首を傾げる。


「痛い?」

「うん、泣いてるから」


 泣いてる?誰が?


「あのね、いいこと教えてあげる!」

「いい、こと……」

「うん!悲しい事があった時こそ笑うんだよ、にーって!」


 女の子は自分の指で、頬を上げ、ニッコリと笑ってみせる。


 私は、女の子と同じように、指で、頬を上げる。


「にー」


 悲しい時ほど、笑う……


 なぜだかわからない、だが、その言葉は確かに私の中へと落ちていったのを感じた。


 その日から、毎日のように女の子と会うようになっていった――


「お姉ちゃん!」

「うわっ!危ないよ、ルナ」


 ルナは、私を見つけるやいなや、胸に飛び込んでくる。


「だいじょうぶ〜だってお姉ちゃんがいるもん」


 こうして一緒にいる間は、自分の力のことなんて忘れられた、元の世界で笑っていたように笑えていた。


「お母さんが今日もうちに来なって言ってたよ!」

「毎日行ってるけどいいの?」

「いいの!来てくれなきゃ怒るよ!」


 ルナは口を膨らませる。


「ハハッ、わかった行くよ」


 たまに、嫌な記憶を見てしまうこともあるけど、とても幸せだ、ルナに出会えてよかった。


 一緒にルナの家に向かっていると、ルナが何かを思い出したかのように声を上げる。


「あっ!一緒にいっちゃダメなんだった!」

「なんで?」

「なんでもない、お姉ちゃんはもう少ししてから来て!」

「いいけど」


  必死な様子のルナを見て、私は少し時間を潰してから、ルナの家へ向かう。


 家につくと、いつものようにドアをノックする。だが、物音一つしない。いつもなら直ぐに足音が聞こえてきて、ドアが開くはずだ。


 なぜだかわからない、でも、何故か嫌な予感がした。


 私はドアをゆっくりと開け、中に入る。


「ルナ?いる?」


 リビングの扉を開けた。


 その瞬間――


 あたりは真っ赤に染まり、変わり果てた、ルナの姿があった。


「ルナ!」


 記憶が感情が溢れてくる。


『嫌だ!助けて!お姉ちゃん!』


 呼吸の仕方がわからない、どんどん呼吸が浅くなる、もう出ることはないと思っていた涙が、あふれ出る。


『悲しい事があった時こそ笑うんだよ、にーって!』


 記憶と同じように、指を頬に持っていく。


「にー……」


 散らばったごちそうと、ケーキを見つける、原型をとどめてはいなかったが、私にはわかる。


『お姉ちゃん喜んでくれるかな?』

『喜んでくれるわよ』


 そう話す、ルナとルナのお母さんが見える、聞こえる。


 そして、見える……ルナを殺した犯人が……


 私の中の深く暗く黒い感情が、大きくなるのを感じる。


 許さない……


「ルナ……犯人は私が……」


 これは終わりじゃない、始まりだ……






 





 


 


 



 


 


 




 




 







 


 


 




 




 



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