迷宮商人
大介丸
第1話
西大陸アウタウンには中級冒険者以上が活動拠点としている
迷宮都市なるものが3つある
第一都市“栄光の都”アヴァロニア
第二都市“古代の都”ヴィンダム
第三都市“魔法都市”ランザッド
どこの都市も街壁で囲まれた城塞都市で、冒険者を相手に商売をしようとする
抜け目のない商人達も集まってくるため、常に活気があり
商売も盛ん だ
それぞれの『迷宮』の上層は比較的安全ではあるが、最下層では
凶悪な魔物が跳梁跋扈する地獄でもある
熟練の冒険者でさえも安易に脚を踏み込めるほど安易ではないが、
より深い層での魔物狩りが一攫千金への近道でもある
そんな『迷宮』内部では、探索に潜ってくる冒険者パーティー相手に
小銭を稼ぐ商魂たくましい者達も存在した
そういった者達を冒険者達は“迷宮商人”と呼ぶ
彼らは主に地下1階から2階の比較的浅い層で、探索に行く者達相手に
罠の解除や武器・防具の修理などを行ってその対価として
僅かな金銭を稼いでいる
それぞれの『迷宮』も、地下3階からは強力な魔物が
多数生息する危険区域化するため、小銭を稼ぐ“迷宮商人”も
踏み込むような事はしない
地下1階から2階までが比較的安全で初心者向けの階層だ
迷宮に棲み付く魔物が一段と強力になる地下3階へ続く
階段がある広間は、通路の幅が広く魔物から襲われる危険がどういう訳か
無いため商魂たくましい“迷宮商人”達がここで店を広げている
―――“古代の都”ヴィンダムでは、三つの迷宮が比較的近い場所に
存在しているためか辺には都市近郊の魔物討伐を目的とした
冒険者パーティーが多く集まる
そのためヴィンダムの冒険者達は、他の都市よりも比較的安全に
魔物狩りを行う事ができた
そのせいもあってか、ヴィンダムの『冒険者ギルド』は大陸でも
有数の規模を誇り、多くの冒険者が所属している。
またヴィンダムは迷宮都市としての規模も大きく、 “迷宮”と呼ばれる
地下への大穴も複数存在し、その周辺には“迷宮商人”達が 店を構えている
“古代の都”ヴィンダムの『迷宮』の地下5階層の危険区域には、いったい
何時ごろから居ついているのか不明な1人の“迷宮商人”が店を構えていた
各『迷宮』内部では共通している事だが、魔物を寄せ付けない少なからず
安全地帯と呼ばれる空間が存在している
その場所に立てばたとえ凶悪な魔物に襲撃される事があったとしても、
安全地帯に逃げ込む事で難を逃れられるので、命を落とすリスクを減らせる
とはいえ絶対ではないし、魔物は四方八方にいるため安全地帯にいられる事は
そう多くはない。
そのため戦闘は避けられない事もあるのだが・・・
『迷宮』探索を行う冒険者達もそういった安全な場所で野営や休息を取る
危険と隣り合わせの地下迷宮の探索をする際は、そういった
安全地帯に目星をつけて探索を行うのが定石だ。
安全地帯は迷宮内の各階層に点在しているが、大体は地下7階前後に
存在すると言われている。
“古代の都”ヴィンダムの『迷宮』では、地下10階から最下層へと脚を踏み入れた
冒険者パーティーはまだ存在してはいなかった
地下7階の安全地帯の一つに、リュックサックを背負った
『迷宮商人』がゆったりとした歩調で入ってきた
そこでは地下7階まで潜れる熟練冒険者パーティーが、魔物との
戦いを終えたあとの休息を取っている
複数のパーティーは、装備品の整備や保管や簡易な食事を摂って
わずかだが休息を取っている最中だ
「迷宮商人です。
ご利用の冒険者様はおられますか?」
そんな冒険者パーティーに営業スマイルで声をかける
警戒の色を浮かべる冒険者パーティーは最近“古代の都”ヴィンダム以外から
やってきていた
そのこともありこの“古代の都”ヴィンダムの『迷宮』地下7階層で“迷宮商人”を
見かけるとは思ってもいなかったので、怪訝な表情や敵意の視線を“迷宮商人”に向けると剣の柄に手をかける
「ああ、ちょっと待ってくれ」
そう声をかけてきたのは、 “古代の都”ヴィンダムの『迷宮』を主に冒険者活動拠点としているヴェテラン冒険者の1人だ
「商品のお求めでしょうか?」
『迷宮商人』が視線を合わせつつ、話しかけてきた冒険者に問いかける
「そうだな。
取り敢えず商品を見せてくれよ」
話しかけてきた冒険者は、腰にサーベルを携えた筋骨隆々の戦士然とした男だ。
その後ろには、革鎧を着た男女2人が控えている
『迷宮商人』は背負っていたリュックサックを床に下ろすと、まず
簡易なテーブルを取り出して組み立てた
その上に木の板を載せると、リュックサックから次々と“商品”を並べていく
リュックサックの中には一体何が入っているのか、その中身は
『迷宮商人』の商いの核心だ
テーブルに並べたのは、毒消しや気付け薬にポーションなどの各種回復薬系の
消耗品に加え、弓と矢、鍋に水筒、魔物の皮で作った鎧や服といった
装備品類。
また小さな木箱に収められた魔石もテーブルの上に並べていく
ここは安全地帯とはいえ、地下7階の危険区域のど真ん中にある場所だ。
そんなところで大っぴらに商品を並べる“迷宮商人”に
“古代の都”ヴィンダム以外からやってきていた冒険者パーティーは
初めて好奇の視線を投げかける
“迷宮商人”が商う物は、一見すると 同じように見えるが
取り扱う商品にはそれぞれ得意不得意がある
例えば“迷宮商人”が扱う商品の中で消耗品である回復薬や、各種魔石などの
類いは“古代の都”ヴィンダムでなくても入手可能だ。
しかし、『迷宮』内の“迷宮商人”で買うとなるとそこそこ値が張るので、
基本的には街の道具屋で準備をしてから“迷宮”探索に乗り出す事になる。
「左から上級ポーション、解毒剤、スタミナ回復薬、石化解除薬、麻痺解除薬、
気付け薬、魔力回復剤です
回復系アイテムは1本あたり銀貨2枚から4枚、一時的に防御力や攻撃力を
強化が可能な消費アイテム類は、金貨2枚となっています」
価格は、地上の道具屋や上層階層の“迷宮商人”が販売している値段より、かなり
割高ではあったが、もっとも地下7階まで潜れる熟練冒険者パーティーに取っては
決して払えない金額ではなかった
「……なかなかの金額だな」
筋骨隆々の戦士然とした冒険者は、眉間に皺を寄せつつ静かにそう口にした
また、パーティーメンバーである男女2人も自分の取り分はどのようになるのかを
気にしている様子だ。
「迷宮の外や上層階層でいい値で転売もききますよ
外の治安も良いとは言えないスラム化した貧しい地区内の雑貨店ならば、
銀貨400枚で引き取ってくれるでしょう」
『迷宮商人』がそう言うと、 筋骨隆々の戦士然とした男の表情が
少し表情を変えた
後ろに控えていた革鎧を着た男女2人のうち、弓使いと思われる女が
前に出てきて床に並べられた商品をまじまじと見つめると
むすっとした表情で何か考える
「悪いが、俺達は今持ち合わせがないんだ。
もう少し安くならねぇか?」
話しかけてきたのは、後ろに控えていた革鎧を着たやや細身の男だ
盗賊系職業だと思われる男の口調から、交渉事や値切りには
慣れているようだ
しかし、『迷宮商人』は、にこやかな表情を崩すことなく 革鎧の男の
交渉に応じる姿勢を見せる
「分かりました。
それではこちらの3つの品物セットで、金貨3枚と銀貨80枚ではどうでしょうか?」
『迷宮商人』のその言葉に、弓使いの女と盗賊系職業の男も苦笑を浮かべる
2人とも内心では“やはり高い”とでも思っているのだろう
『迷宮商人』が提示した商品セット3つには、上級ポーションや解毒剤が
含まれているので、地下7階まで潜れる熟練冒険者パーティーに取っては
お得だ
が、まだ上層階層までしか潜れない資金もない駆け出し冒険者パーティーに
取っては、金貨3枚と銀貨80枚という金額は手が出せない
あくまでも地下7階まで潜れる熟練冒険者パーティーにとって、 “購入できない
金額”ではない
それにこの“古代の都”ヴィンダムを拠点としている熟練冒険者達は知っていた
この『迷宮商人』が扱う商品には、『迷宮』外の店や上層の“迷宮商人”からでは
手に入らないような珍しいアイテム類も含まれている事を
「もう少しまけてくれ」
盗賊系職業の男がそう言う
「あなた方冒険者の皆さんには、いつもお世話になっています
今後ともご贔屓にして頂けるのであればありがたいのですが、
さすがにこれ以上の値下げは難しいですね」
『迷宮商人』は、申し訳なさそうな貌をしながら返答した
筋骨隆々の戦士然とした冒険者はしばし考え込むと、やがて
溜息をついた
「わかった。その金額で3つセットを買おう」
傍らにいた弓使いと思われる女に視線を送りながらそう言う
それを合図に代金が入った皮袋を、腰に携えていたベルトから外し
テーブルに置いた
「まいどありがとうございます」
『迷宮商人』は微笑みながら礼の言葉を述べると、3つの品物セットを
盗賊系職業の男へと手渡す
「またよろしく頼むぜ」
盗賊系職業の男が商品を受け取りつつ笑顔で挨拶を返すと、3人は離れていく
『迷宮商人』は3人の後ろ姿を視ながら恭しく頭を下げると、組み立てた
簡易なテーブルをリュックサックにしまう。
そして床に置いていた商品をリュックサックの中に詰めていくと、背負ってから
そのまま休憩所を 後にしていった
「値段は上層階層の“迷宮商人”が売っているより、高かったんじゃないのか?」
『迷宮商人』が出て行った後に、その様子を見ていた
冒険者パーティーメンバーの1人が、 革鎧を着た男女の2人に
そう声をかける
声をかけられた2人はチラリと視線を冒険者の男に向けてから、すぐに視線を外す
その態度は、 “答える必要はない”といった意思表示だ
「ひょっとしてヴィンダムの『迷宮』は初めてか?
なら、わからんとは思うがココではこの階層まで潜ってくる
同業者のほとんどはあの『迷宮商人』を利用しているんだ」
筋骨隆々の戦士然とした冒険者が、2人の代わりに静かに
そう説明した
「・・・よくまぁこんな深い階層で商売できるもんだな
このヴィンダムの『迷宮』も、この階層からは魔物も凶悪に
なってくるし冒険者崩れも増えてくるんじゃないのか?
並みの商人なら身ぐるみ剝がされて魔物の餌になってるだろうに」
呆れたように、話しかけてきた冒険者がそう口にする
革鎧を着た男女2人は“こいつは何を言っているのか?”という
表情を浮かべた
「お前さん、気付いて無かっただろ?」
筋骨隆々の戦士然とした冒険者が、少し冷ややかな
視線を向けつつそう口にした
「い、いや。知ってたぞ、俺は」
話しかけてきた冒険者は、貌を若干引きつらせつつ視線を
そらしてそう応える
「商人の後ろに用心棒が居ただろ?
何処かの間抜けが商品を奪おうとしても、数秒もしないうちに
頸と胴が離れることになる」
その態度を見て取った筋骨隆々の戦士然とした冒険者は、溜息をつくと
言葉を続けた
「・・・」
話しかけてきた冒険者は、それを聞いて沈黙した
そんな気配を察していなかったからだ
「あの『迷宮商人』を護衛しているのは、噂では東方島国『大和国』から
流れてきた剣客らしい
少数の目撃した同業者が、その用心棒が商人に襲い掛かっていた
地竜やオーガを東方島国の発祥の一振りの刀だけで
全て一刀のもとに斬り伏せたと証言している」
筋骨隆々の戦士然とした冒険者は静かに語った
「そんなに凄腕なら、何処かのパーティーに入っていてもおかしくねぇな
なんで商人の用心棒なんかしてるんだ?」
話しかけてきた冒険者は、生唾を呑み込みつつそう呟く
「さあな。色々とあるんだろうよ」
筋骨隆々の戦士然とした冒険者はそう言い終えると、2人を連れて
安全地帯から出て行った
松明の灯がない中、『迷宮商人』とその用心棒はが薄暗い迷宮内を
歩みを進めていた
“迷宮”には光が届かないため、常に薄暗く視界が悪い
『迷宮商人』は、歩きながら時折立ち止まっては周囲を見回している
何かを確認するかのように再び歩みを進めては、また止まるといった
行動を何度か繰り返しているが、用心棒は一言も文句も言わず
『迷宮商人』に付き従っていた
付き従う用心棒が身に纏っているのは、東方島国『大和国』では珍しくはない
袴で、それも黒系の高級感があるものだ
着物に袴という出で立ちは、 “迷宮”内では珍しい
腰に差している武器は2本。
1つは鞘に入った日本刀だ。
用心棒の男は、その刀を左腰の位置に帯剣していた。
まるで身体の一部のように自然体だ
また、足元は東方島国発祥の足袋を着用しており、袴の裾から
見える足袋は 年季を感じさせるくすんだ色合いをしているが、旅塵の
汚れや垢などが見当たらない
「商品のお求めでしょうか?」
やがで『迷宮商人』が脚を止めながら、暗がりに向けてそう声を発した
しばらくして、迷宮の床を擦る複数の音が静かに響いてきた
「こいつぁツイてるぜぇ」
下卑た笑い声と共に、暗闇の中から姿を現したのは粗末な棍棒や
先が欠け歯がノコギリのように刃こぼれした長剣を構えた
6人の男達が、ゆらりっと姿を現した
薄汚れた革鎧を身に着け腰布を巻いているだけの恰好で、誰も彼もが
殺しを厭わないギラつく野獣の様に眼を光らており
薄汚れた口周りからは 不揃いな歯並びが覗いている
またその眼には、 “迷宮”に巣くう魔物達のような狂気の輝きを宿していた
それぞれ武器や鎧は異なるものの、いずれも粗悪で粗末な物ばかりで
共通して下品で好戦的な雰囲気を身に纏っている
その集団が真っ当な冒険者であるはずかなく、 “迷宮”内で畜生働きに
味をしめ、外道働きを生業とする冒険者崩れ達だ
“迷宮”内部にも外部にも、冒険者崩れの類は珍しくはない
しかし、外道働きを 生業とする者達を取り締まる『冒険者ギルド』からは、
見せしめ として賞金首に指定される事がある。
「私は見ての通り『迷宮商人』です
お引き取り願えませんか?」
眼の前に現れた冒険者崩れに眼を細めつつ、落ち着いた口調で
『迷宮商人』が応える
「お前の金か命を、全部置いていけ」
薄汚れた革鎧を身に着けている集団の1人が、下卑た笑いを浮かべながら
そう返答した
その眼には、“獲物”を見つけた事への喜びと興奮でギラつくように
光っている
しかしそんな男達を前にしても、用心棒は顔色一つ変えることなく
静かに佇んだままだ
「お断りします」
『迷宮商人』は即答しながら、視線を用心棒にゆっくりと向けた
それと共に、用心棒が当たり前かのように自然な動作で『迷宮商人』の
前へ進み出る
手には鞘から抜いた一振りの刀が握られていた
刀身からは、しらしらとまるで生きているかのように蒼白い妖気が漂っている
鞘の黒と刀身の白さや透き通る様な蒼白のコントラストが美しい一品で、
それだけでも軽々しく武具商店の店先に置かれていない物だとわかる
まるで研ぎ澄まされた刀身そのものが生きているかのような
錯覚さえ覚える
『迷宮商人』の前に出てきた黒い着物を着込んだ用心棒が放つ気配は、
火を見るより明らかな圧倒的な強者のそれだ
対峙している冒険者崩れ達は、自分達とは“格が違う”と本能的に感じ取り、
知らず冷や汗が 出て、身体と思考が萎縮して硬く強張っている
だが、それでも武器を手にしている以上は戦わなければならない。
“迷宮”の中では何時命を失ってもおかしくはないからだ
「じゃあ死ねや!!」
先頭にいた男はそう叫ぶと、左手に持つ錆び付いた長剣を大振りで
横薙ぎに振るった。
その長剣は、用心棒の胴を捉えていた
――一瞬の事だった。
用心棒は、無造作に左首根から袈裟懸けに冒険者崩れの胴を薙いだ
そして、その長剣を振り下ろす前に男の胴は両断され、上半身と
下半身に分断されて床に崩れ落ちた
一瞬の出来事で何が起こったか、わからなかった冒険者崩れの
残りの者達は我に返るのがあまりにも遅すぎた
用心棒が素早く動くと、今度は右首根から袈裟懸けに2人同時に
二閃、斬りつけていく
2人の男は断末魔の叫びをあげる暇もなく絶命し床に倒れ伏した
「くそっ!こいつっ!」
残る3人は怒気と恐怖で表情を歪ませつつ、武器を手にして
用心棒へと襲い掛かる
だが、その攻撃が成功する前に用心棒がつかつかと歩みより、1人の男の
頸を右に薙いで斬り飛ばした
その鮮やかすぎる一閃が、残りの2人を怖じけさせる
しかし、そんな様子を見逃す用心棒ではなく、袈裟懸けに斬撃を
繰り出し 左右にいる2人を斬り捨てた
戦闘開始から、まだ数十秒と経っていない 一瞬の出来事だった
2人の男は断末魔の叫びをあげる暇もなく絶命し
床に倒れ伏した
そして、用心棒は事も無かったかのように一連の動きには
一切の無駄が無く、刀を一振りして鞘に納めた
「終わりました」
用心棒は、何の感情もない声で『迷宮商人』に向かって告げた
「ありがとうございます。本当に助かります」
『迷宮商人』は、軽く頭を下げながら応じた
「これが『契約』です」
用心棒は、何の感情もない声で淡々と告げた
その時、再び暗闇から足音が響いてきた
それは『迷宮商人』の背後から聴こえる
ゆっくりと『迷宮商人』が、振り返ってみると
そこには一人の女性が立っていた
背がやや高く、外見年齢26~28歳程度
『迷宮』では不自然な 高価なスーツとコートを纏っている
ダークブラウン色の髪は肩を過ぎる長さだ
口元にあるホクロ特徴的である
美貌の左側は深い火傷の痕に占められているため、右目の鋭い
眼光が相手を威圧する
やや険がある貌立ちながら表情は乏しい
「外回りの営業は終えましたか? 店長」
“火傷貌”の女性が、まるで“業務連絡”でもしているような
淡白で素っ気ない口ぶりでそう尋ねた
しかしその表情には、 “感情表現が乏しい”と形容できるほど、
ほとんど変化はない
だがそれは、彼女の表情の機微を見逃さない者からすれば、
それが怒りの表情であるとわかるだろう
彼女は今現在“不機嫌”なのだ
「休憩所での営業は終了しました。何かありましたか?」
『迷宮商人』は、何事も無かったかのようにそう訊ねた。
「……店舗に招かねざるお客様が13人ほどいらっしゃいます」
目の前で起こった惨劇の現場に“何の動揺”もせずに、『迷宮商人』の
側まで歩み寄ると囁く様にそう“報告”した
その口調は、まるで業務連絡をするかのように淡々としたものだ。
『迷宮商人』は、しばし思案するとふぅっと大きく溜め息をつく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます