我薔薇原薔薇香

白川津 中々

◾️

 それにつけても新キャラクターの名前である。


 人気下落のテコ入れとして今週から出る女。気に入らんが担当の指示。即ち会社の指示であるから従わざるを得ない。現行路線で売り切れない俺の責任であるからそこは納得してやるが、しかし。


 我薔薇原薔薇香がばらばらばらか


 新キャラ名の担当案である。

 俺は正気を疑った。変名にしても度が過ぎている。そういえばあの男は重度の西尾維新フリークだった。多分に影響されているのだろうがセンスがない。よくエンタメ業界に入れたものだ。とはいえ、「センスねーから嫌だ」とも言えん。仮にも俺はクリエイター。代案なくして否定はできん。できんが、思いつかん。人にセンス云々と述べたが実のところ俺も名付けに光があるわけでもない。だからタナカサトシとかヤマダアユミとかそんなキャラクターばかりなのである。それもあって我薔薇原は世界観の崩壊に繋がりかねないのであるが、テコ入れとはそういうものであり、即ち我薔薇原以上のインパクトを出さなければ落第となる。負けたら二度と担当に口出しできなくなってしまうわけだ。そんなプレッシャーが、連載よりも重くのしかかるのだから堪ったものではない。早くこの無駄な苦痛から解放されたいのに一向に捻り出ない。話自体はできているのに、後は名前を入れるだけなのに、終わらない。もどかしい。イライラする。精神衛生が終わっていく。ただでさえストレスの溜まる週刊連載だというのに! 


「……致し方なし」


 俺は腹を括った。

 もう我薔薇原でいくと決めたのだ。


 どの道テコ入れが必要な程弱くなった訴求力。打ち切りになってもやむなしである。なればもう省エネで続けつつ次の作品構想にウェイトをおいた方が合理的ではないか。決して、担当との勝負を降りたわけではない。

 ということでメンタルセット完了。原稿に我薔薇原薔薇香の名を入れ入稿。願わくば、この新キャラがクソミソに叩かれますようにと願いながら一服紫炎を燻らせた。


 後日、意に反して我薔薇原は大人気キャラクターとなり、こいつのおかげでアニメ化までこぎつけた。

 読者はクソだ。

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