閑話・【アンリアルウィッチ】のための髪飾り――⑤

「…………」


 その日のクラリスさんは沈んでいた。


 この様子も見たことがある。「まさかとは思うけど……まさかとは思うけど、勘違い…………?」という、だ。


 今まで幾度いくどと見てきたイチコさんファンの通例どおりなら、この沈鬱ちんうつが収まると次の段階として、立ち直ると同時にイチコさんへ熱烈に想いを寄せ始めるフェーズに移行するだろう。


 ボクとモニカは顔を見合わせると、立ち上がった。


「クーロちゃん! 起きて!!」


「えっ、あっ、お、起きてるわよ……!」


「今日はクロちゃんにプレゼントしたいものがあるんだ。いつもお世話になってる、お礼!」


「プレゼント……? そ、そう?」


「ボクたちが作った、ちょっとした装飾品です。受け取ってくれますか?」


「え、ええ、――ありがとう、嬉しい……。――――開けてもいいかしら?」


 ボクたちが頷くと、クラリスさんは丁寧な手つきで、小さな白色の箱を開けてくれた。


 ――ボクたちがつくり上げたのは、深い赤琥珀あかこはく色に輝く、幅をたっぷりと取った長方形の髪飾りだった。


 ドラゴン赤琥珀あかこはく


【竜の牙】を素材マテリアルとして精錬し、熱処理をほどこすことで、はがねは【琥珀の王】と呼ばれる深い酸化色さんかしょくに似た、風格ある落ち着いた輝きを放つ。


 宝石よりも美しいと世にうたわれる、はがねの色合いの極地。


 これが高炭素鋼だと一見で見抜ける人はまずいないだろう。

 鍛冶職人が装身具そうしんぐの制作を頼まれる所以ゆえん――。


 クラリスさんは見開いた目でそれを手に取った。


「…………。――モニカ、この髪飾りを、私の髪に、飾ってくれる?」


「うんっ!」


 そうして、これ以上ない真剣な表情で背後から髪飾りを飾り付けたモニカに礼を述べ、クラリスさんは姿見の前に立った。


「――――二人とも、ありがとう。【アンリアルウィッチ】に相応しい髪飾りだわ」


 ボクたちは小さくも力強くグッと拳を握り締め、胸をくすぐるように湧き出した柔らかな笑みを、どうしようもなく止められずに浮かべていた。


 ――あとは、もうお二人次第のことだ。

 ボクたちはただ祈り願うのみ。

 い結末を、晴れやかな空のような未来を。

 

 存在の美しさを目に魅せる装身具そうしんぐよ。

 どうか飾人しょくじんに竜の如きの意思をもたらせせ、世にその者を鮮明にせよ。


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