天使を打ち倒す【銀灰の細身剣】――②

「なんだか久方ぶりだねェ」


 お師匠様がまた工房こうぼうに訪れてくれた時、ボクたちは刹那せつなだけ新たな試練を予感したけれど、今日はそういったことが用事でないことは、すぐに察することができた。


 表情は特に変わらないのだけれど、随時ずいじより覇気はきが少しだけがれていた、お師匠様の様子に。


 ボクたちは、雑談を挟んでお茶を頂いた。

 けれどモニカの雰囲気を温めようとする元気はどこか空回りしていて、いつも通りの歓談とはいかなかった。


 この雰囲気をどうにかすれば、お師匠様が切り出す話のほうも、ひょっとすればどうにかなるのではないか。


 そのような、理知的とは言えない思いを、お師匠様も、汲んでくれていた。



「コルトハーツが死んだ」



 ――――嗚呼ああ


「【オブレーガの大地】をどうにかできる人間がいるとすれば、キミたちを除けば彼女くらいのものだと思っていたんだがねェ、――本当にポックリと死んでしまった」


 お師匠様も、昔から彼女の名前は間違えなかった。


 脳裏に、【銀灰の細身剣】の姿見がぎる。


 ――分かっていた。

 でもなんで。


 なんでも何も、ないのだけれど……――嗚呼ああ


「永らく行方知れずの状態だったが、【ランベレス領域】にて遺体が発見されたよ。遺体だけでも回収できてよかった」


「【ランベレス領域】――【オブレーガの大地】に繋がる膝元……!? どうしてコルトハーツさんがそこに……」


「分からない。――と、されている」


 微妙な言い回し。


 漠然ばくぜんと聞いても意味が分からなかったが――――どうしてか、胸が冷たく、ザワついた。


「【オブレーガの大地】へ続く、【転位陣ワープマーカー】その付近で遺体は発見された。【ランベレス領域】は、いかなる理由があろうと立ち入り厳禁だから、遺体の発見が遅れたんだ。コルトハーツは【道理を打ち破る道義の魔法コード・オーバー・オルディール】の魔法を使えたから、結界の魔法を突破できたんだね。どうしてコルトハーツがそこに。――彼女は察知したんだろうね、その幻獣アビシアンの出現を。彼女の遺体の近くには……【天使をかたどった土類生命ゴーレム】、その亡骸なきがらと思われている残骸ざんがいが散乱していた」


「「――――――――…………」」


 言葉を失った。


 息を飲む――……。



「――――天使をかたどった、土類生命ゴーレム。そんな……【が、どうして……!?」



「【オブレーガの大地】にまつわる契機けいきの前触れ、という見方もできるが、今回のことは、歴史上初めて始めて観測された【転位陣ワープマーカー】の不具合バグと見られる。転位陣アレは古代史の産物で、近代において誰も解析できた者がいないから確かなことは言えないが……とにかく、一連の理由はそういったわけだ。――皆は天使を象った土類生命アレが、ただの未確認種の幻獣アビシアンだと思っているが、私たちだけは残骸ざんがいの意味を知り得ている。そして、そのことを世間に知られることは、望ましくない」


「……ねえ、お師匠様」


 モニカが、おさえられず不安にれた声で、たずねた。


「お師匠様は、【天使をかたどった土類生命ゴーレム】、その亡骸なきがら残骸ざんがいが散乱していた、って言った。どうして、思われている、って言葉を使ったの?」


「うん」


 そしてお師匠様は――もう一つの本題を明かした。


「散乱していた亡骸なきがらの付近において、核部位コア――【魔王の夢ナイトメアコア】の残骸が、発見されなかった」


 自分の顔から、サッと血の気が引くのが分かった。


「【オブレーガの大地】に出現する幻獣アビシアンは総じて、【魔王の夢ナイトメアコア】を命として呪いの大地へ繋ぎ止められている代わりに、強大な力をゆうする。――これについては極々ごくごく一部が知り得ている情報だが、【天使をかたどった土類生命ゴーレム】が【オブレーガの大地】に出現する幻獣アビシアンであることなど、私たち以外には分からないからねェ、事態の火急も、私たちしか知り得ることができない事だ」


 お師匠様はいつもの空恐ろしい瞳に、いつもとは異なる冷静をたたえて、ボクたちへとげた。


「すぐに元の姿へ復元しないのを見るに、コルトハーツは【魔王の夢ナイトメアコア】に傷を付けたのだろう。【天使をかたどった土類生命ゴーレム】は【オブレーガの大地】でしか存続できない幻獣アビシアンだ、放っておいても消滅しょうめつはするが、その前に、もう一度くらい暴れる余力よりょくゆうしているだろうねェ。

 そこでだ。

 これは、キミたちを見込む見込まないの話ではない。

 ――私の弟子たちにめいずる、私の弟子という立場において、【天使をかたどった土類生命ゴーレム】の完全討伐に手を貸しなさい」


「「――「【リョウガ鍛錬所たんれんじょ】が承ります」」


 ボクたちの即座の答えを聞いて、お師匠様は口角を上げて頷いた。


 コルトハーツさんの意思を引き継ぐ討伐戦。


 このような形でまたあの悪夢と再臨さいりんするとは――――けれど、ずっと準備し続けてきた。

 そうして生きてきた。


 そしてそれは――……。


兄貴アニキ、頑張ろう」


 ――モニカと共に歩む道のりであることを、忘れずに。二人だから焦らずに。


 そうして、そなえてきたんだ。


「必ずここへ帰ってこよう。必ず、二人で」


 モニカはニッと笑った。



 ――――依頼を受注。


【天使をかたどった土類生命ゴーレム】の討伐。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る