キメラゴブリンを斬り伏せる大金槌《クラッシャーハンマー》――①

 先日の【銀灰の細身剣】の仕事を終えてから、納品依頼のほうは一旦かたがついて、本日は創作武器の構想に取り組んでいた。


「おっ、兄貴アニキ、新しい武器の考案? 見して見してー」


 羊皮紙とペンを手に取り、机について思案を巡らせていると、ボクの肩に手を回して、モニカが後ろから身をあずけてきた。

 モニカにも羊皮紙が見えるようにして、難しい顔を浮かべる。


「【銀灰の細身剣】は――細身の刀身とうしんだからこそ、けど、これが大剣であった場合は……正直、どのように精錬せいれんしたものか分からない。はがねを打つ数をこなせば不可能ではないけれど、人の一生に等しい時間がかかっちゃうよ。なにか、特別な方法を考えないといけない……」


「相変わらず、鍛冶かじ仕事のことで頭がいっぱいだねー、兄貴アニキは」


 そんなふうに言いながら、モニカ共々しばし二人で、「ああでもないこうでもない」と議論を交わしていた。


 と、そこで工房のチャイムが鳴った。


「おっと、お客さんかな? ――ハーイ、少々お待ちを~」


 出向いたモニカの後ろから玄関口へ向かうと、扉向こうに立っていたのは、この村の魔法具屋の店主、イチコドールさんだった。


 紫色の長髪をらして会釈えしゃくするイチコさんの表情には、のっぴきならない悩みの感情が浮いていた。


「おはよう、リョウガくん、モニカちゃん。朝早くにごめんなさい」


「おはようございます、イチコさん。とんでもない、今日はどのようなご用件でしょうか」


 工房の中で、お話聞かせてください――そうすすめたのだけれど、イチコさんは躊躇とまどいを見せてほおに手を当てた。


「いえね、今日は魔法具店の営業や工房への依頼で訪れたわけではなくて……最近、物騒な噂が広まっていて。そのことについて伝えに来たの、軒下で、少し聞いていってもらってもいい?」


 そして、イチコさんが語ることには――。


 いわく、最近この村の周辺で、不可解な【幻獣遭遇ディザスター】が観測されたらしい。


 商人の一団が襲われ、一行のことごとくが命を落としたのだという。


 調査の結果、現場の破壊痕はかいこんから『【ゴブリン】の急襲』であると判断されたが、奇妙なのは……商人の一団には【幻獣対策協会セイバーギルド】の護衛者も同行しており、彼等かれらが【ゴブリン】に引けを取るとは、考えづらいというところだった。


【ゴブリン】。

 知性も薄く、大群で群れることもない、プロフェッショナルであれば対処は難しくない【幻獣アビシアン】だ。


「――そんなわけで、なにか予想外のことが起こったか……変異種の【幻獣アビシアン】であるかって話が、がっててね。村の周辺といっても、事故現場からここまでは距離があるけれど、リョウガくんとモニカちゃんも、気を付けておいてねって話だったの」


「「ありがとう、イチコさん」」「気をつけます。わざわざ伝えてくれてありがとう!」


 モニカと礼を伝えて、せっかくだからと、モニカが自家製ジャムを手土産にお渡ししたりして、そんなすえ、イチコドールさんを見送った。


「――イチコさん、今日も胸でけぇー」


「こら、モニカ」


「美人だし20歳ハタチの若さだし、そりゃ村の男連中も皆、イチコさんに夢中になるよねー」


 立ち姿から美しい、スラッとした背に、優しく整った顔立ち。

 村のヒロイン的な人で、それも関係してか、【イチコドール魔法具店】はいつでも繁盛はんじょうしていた。


「――……しかし、変異種の【幻獣アビシアン】の可能性、か……。一応、気をつけておこう」


「……これ以上の事故に、繋がらなきゃいいけど……」


 しかし、世界はいつだって、ボクたちの願いとは無関係にことを押し進める。


 その四日後だった。


 決定的な事故が起きてしまったのは。



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