第4話 質問と答え

 木こりのジョーダンの告白を聞き、縋るように見つめられても、村長は何も答えることができなかった。



 沈黙が支配するなか、口火を切ったのはビアンカだった。


 「大丈夫です! ジョーダンさんは誰も殺していません!」


 一同の視線がビアンカに集まる。


 「ジョーダンさんが倒したのは『ゾンビ』という化け物です。

 だから誰も殺していません! 大丈夫です!」


 ビアンカの力強い言葉に、ジョーダンの陰った瞳に光が戻る。ビアンカが周囲に視線をめぐらすと、村長以下全員がジョーダンにウンウンと肯定の意味でうなずく。

 ジョーダンが落ち着きを取り戻したのを見計らって、村長の奥さんが全員に熱いお茶を差し出す。


 熱いお茶を飲み一息入れたところでビアンカがジョーダンに話しかける。

 「これからいくつか質問します。つらいかもしれませんが大切なことです。

 落ち着いて、よく思い出して答えてください」


 ビアンカの真剣な様子に、ジョーダンも居住まいをただす。

 全員の注目が集まるなかビアンカの質問が始まった。



 「まず、ゾンビに襲われたときに嚙まれたり、ひっかかれたり、ケガはしませんでしたか?」


 ジョーダンの答えは否だった。ブーツをつかまれただけだったので傷はない、と。


 なぜ噛まれるだけじゃなくひっかかれたりを聞いたのかをアベルがビアンカに問う。

 ビアンカは、ゾンビに噛まれたら絶対にゾンビになるのはもちろんだけど、ひっかき傷からもゾンビになる可能性を話した。これはまだ可能性の問題なので、ひっかき傷でゾンビにはならないかもしれないけれど注意はしてほしいと答えた。


 「動物のゾンビは見かけましたか?」

 

 ジョーダンの答えは否だった。逃げるのに夢中で気づかなかっただけかもしれないけれど、すくなくとも自分は見ていない、と。

 なぜ動物? と村長が疑問を持ったようだが、行商人がすぐに動物のゾンビの危険性に気づいて説明し始めた。大型の動物はより狂暴になって危険だが、どこにでも入り込みやすい小動物はもっと危険だ。ネズミ、モグラ、空を飛べる鳥がゾンビになったら最悪だ。柵で村を囲っても空から来られてはどうしようもない。

 動物のゾンビの危険性に皆顔色をなくす。

 それはまだ可能性の段階で大丈夫かもしれないと声を出したビアンカの質問は続く。


 「ゾンビがまっすぐ村に向かったとして、たどり着くまでのおおよその距離や時間は?」


 ジョーダンが普段仕事場にしているのは森の中ほどのところで、距離もかなりある。村と行き来する際は、遠回りでも足場の良い道を選んで歩いている。知性のないゾンビは直進するしかない。それなら足場の悪い道で転んだりして時間がかかるかもしれないとのジョーダンの答えに、希望的観測ではないかとビアンカは考えた。

 だが、話の流れでゾンビが大きな木の根につまずいて転んだとの新しい情報があった。それなら、ゾンビは段差を登れないのかもしれないとビアンカは考察を口にした。

 段差を登れない、つまりは階段やはしごの上なら追ってこられないかもしれないのかとアベルが言葉にする。

 ビアンカはうなずく。ただこれも確証はないことで、可能性のひとつだと注意を促した。

 避難するなら急いだ方が良いことは確かだ。


 「ゾンビの人数は?」


 ジョーダンの答えは、逃げるのに夢中でわからないだった。隣村の知人の嫁さんと子供と他にもゾンビらしき奴らがいた。5人以上はいると思うとのことだ。

 そこへ村長が口をはさむ。


 「森の中に炭焼き小屋と陶芸の窯の小屋があったよな。

 あいつらもゾンビになったのか?」


 ジョーダンの答えは、「わからない」だった。ジョーダンが見かけた隣村の知人一家以外のゾンビは見知らぬ人達だった。そもそもジョーダンだって隣村の全員を知っているわけではない。仕事がら付き合いのある炭焼き職人や陶芸家は顔見知りだ。ゾンビに顔見知りはいなかった。



 村長とジョーダンの会話を聞きながら、ビアンカはこれからのことを考えていた。

 そして、ある程度まとまった考えを伝えはじめる。

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